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『剣遊記Z』

第二章 冒険にはおまけがいっぱい。

     (5)

「とにかく危険なお仕事やさかい、素人はんの方のご同行はお断り申し上げますえ☢ こればかりはうちらにも、責任が持てまへんのや✄」

 

「まあまあ、ではこうしたらどげんやろっか?」

 

 あくまでも同行拒否の美奈子に、当の中原が、なにやら提案を持ちかけた。

 

「おれが無料{ただ}で悪霊祓いば見物しようっちしたんが間違っとったみたいやけ、やけんそこでやね、きのう見せたブレスレットば、今回の仕事が無事に終了したあとで、報酬としてあんたに譲るばい✈✌」

 

「あんじょう承知しました✌ あなたはんの安全は、このうちが保証いたしますえ♪♡」

 

 話し合いは簡単に成立した。

 

「情けなかぁ〜〜☠」

 

 いつもながら変わり身の早い美奈子に、孝治は嘆きのため息を吐いた。その一方で、絵のモデル代だと言っていた金のブレスレットが美奈子へ回る展開ならば、それだけ自分が脱ぐ理由がなくなってくる。だから考えようによっては、これは好都合な話の成り行きなのかもしれない。

 

「まっ、よかっちゃね☀ どうせおれはブレスレットなんか要らんちゃけ☻ じゃあ、中原さんとやら♐」

 

 話の決着がついたところで、孝治は中原に、ひと言言ってやった。

 

「勝手におれたちについて来て、いろいろ質問ばするとはけっこうなんやけど、現場に着いたら同行禁止やけね☢ これだけは絶対に守っちゃってや✍」

 

「よっしゃ、心得たけ✌」

 

 一応大人らしい分別のついた態度で、中原が孝治にうなずいた。続いて孝治は、黒崎にも振り向いた。

 

「では店長、徹哉くんも現場に着いたら、遠くに避難ばさせますけ✎」

 

 店子の身分など、どこ吹く風。偉そうな態度で、孝治は言い切った。だけれど黒崎は、これに鷹揚な姿勢で応じてくれた。

 

「それは大丈夫だがや。徹哉は人が命じたことは必ず聞くようになっとうらしいがや。だから絶対に無茶な真似はしないと思うがね」

 

「その意味が、いっちょもわからんとですよねぇ〜〜♋」

 

 孝治の頭の周りではやっぱり、『?』が十個ばかり、人工衛星のように旋回した。ところが当の徹哉とやらは、自分の立場を心得ているのかいないのか。相変わらずのポーカーフェイスで、ジッと出発を待ち続けているだけ。いったいなにを考えているのやら。さっぱりわからなかった。それどころか横着にも、早くも仲間気取りで場を取り仕切る始末。

 

「デハ孝治サンニ友美サン。ヨロシクオ願イスルンダナ。デハ黒崎店長、行ッテキマスナンダナ」

 

「ちょい待ちや! まだ荷物なんかの準備も、よう済んじょらんのやけ!」

 

おまけに行き先さえも教えていない。それでもさっさと早足で進み出す徹哉を追い駆けながら、孝治は先行きに大きな前途多難を予感した。


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