前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記Z』

第二章 冒険にはおまけがいっぱい。

     (4)

「あ、あんたも来るとね?」

 

 出発の間際であった。一行の中に混じっている場違いな人物の登場で、孝治は眉間に露骨なシワを寄せる思いになって問いかけた。

 

 その場違いな人物――中原は、ほとんど開き直っている態度で、孝治に応じ返してきた。

 

「当ったり前たい✌ 君のヌード画ば描くんやけ、戦士としての君の本業の姿にも、大いに興味があるったいねぇ✍」

 

 黒崎が今回請けた仕事とは、ある旧家に棲みついた悪霊{ファントム}の退治依頼であった。ただし、相手が悪霊などのアンデッドともなれば、担当は主に魔術師であり、戦士はその護衛を受け持つ役回りがふつうとなる。

 

 そこで孝治の護衛する魔術師とは、ズバリ美奈子、千秋、千夏の三人組。

 

「あのぉ……画家の方も、悪霊祓{ばら}いに御出でなりはるんどすか?」

 

 今回悪霊祓いの主役を務める美奈子も、中原の同行には、疑問と迷惑を感じているご様子。

 

 同行者は他にも、友美とおまけの涼子はもちろんであるが、なんだか正体不明な徹哉も、黒崎からの直々の頼みでついてくるようになっていた。

 

 まあそんな理由で、徹哉には全員が納得できるような話の成り行きがあった。しかし中原はどう贔屓目に見ても、単なるお邪魔虫でしかないに決まっていた。

 

「……店長、中原さんばいっしょに連れてってよかっちゃですか?」

 

 孝治の問いに、黒崎もやや困惑気味の顔になって答えてくれた。

 

「う〜ん、中原さんの場合、未来亭のお客様だからなぁ……基本的になにをされようと自由なんだから、こちらが口を出すわけにはいかんがや……まあ、今回は目的地が偶然いっしょだったと考えて、楽しく同行してやってくれたまえ……」

 

 この黒崎の言葉で、中原は自己中的自分の理論を、さらに大きく高めていた。

 

「そげんわけったい✌ やけんおれんことば気にせんと、存分に悪霊祓いに邁進しや☻」

 

「あなたどすねぇ、簡単に悪霊祓いやおっしゃってまんのやけど……♨」

 

 あまりにも軽くて楽天的な中原の言動に、美奈子が苦言を申し立てた。

 

「これは霊の力にもよりまんのやけど、実はとても危険を伴うお仕事なんやで♋ そやさかい、悪霊の怨念の程度によりはっては、こちらが命を落とす危険さえあるさかいに☠」

 

「そや! 千秋かて仰山怖い思いしたもんやで!」

 

「へぇ、そうなの♠」

 

 孝治は思わず感心した。実は孝治と友美にはあまり経験はないのだが、それ以前に美奈子と千秋には、何度か除霊を行なった前歴がある様子(千夏はわからないけど)。そのようなふたりだからこそ、安易感丸出しである中原が、とても腹に据えかねる気分なのだろう。

 

 そんなやり取りを見ている孝治は、自分の背後で控える涼子に、こそっとからかい調子でささやいてやった。

 

「おまえ、当分自己紹介ばやめたほうがよかみたいっちゃね♐ 間違って除霊ばされとうなかやろ☻」

 

『うん、そげんする♋』

 

 さすがの涼子も今だけであろうけど、とてもおとなしい様子でいた。確かに今の美奈子の前に姿を現わしたら、それこそ問答無用でお祓いをされるに違いないだろうから。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system