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『剣遊記Z』

第二章 冒険にはおまけがいっぱい。

     (2)

 この変な事態に、孝治は一瞬、我が耳を疑った。ところが孝治の疑問を先読みするかのように、黒崎がさっと答えてくれた。

 

「おっと、それは気にせんでええがや。徹哉君は少々硬めの体質なんだがね」

 

「……そ、そげんですかぁ……☁」

 

 孝治は言われるがままにうなずいた。顔面が少々ひきつる思いを感じながらで。

 

 硬めの体質というからには、徹哉は人間ではなく、亜人間{デミ・ヒューマン}の部類なのだろうか。しかし孝治の知識に、そのような硬質系の種族は見当たらなかった。単に勉強不足とも言えるけど。

 

 その徹哉が、初めて孝治に返事をした。

 

「孝治サン、イロイロト教エテホシインダナ。デモ、オ手柔ラカニオ願イシタインダナ。コレデモボクハ、チョットでりけーと気味ナンダナ」

 

 しゃべり方まで、なんだか妙。強いて言えば、変に堅苦しい――どころかはっきり言って、これも硬質的だった。表現がかなりむずかしい状況だが、言葉が金属の音みたいで、まるで人の温かみを感じない――と言うべきか。

 

 ついでに口調が、某天才裸の放浪画家と似ていたりして(これは中原とは関係なし)。

 

 このときコンコンと、執務室のドアをノックする音がした。

 

「どうぞ、入りたまえ」

 

 黒崎が応じると、ドアを開いて外出していた秘書の勝美が、パタパタと飛んで入ってきた。ピクシーでありながら、勝美は自分の体の何十倍もあるドアでさえ、まったくふつうに開けられるのだ。

 

「店長、ただ今帰りました☀ それとお客さんですばい☞ ちかっと下ん階で待ってもろうてますけ☺」

 

「わかった。すぐ行くがや」

 

 黒崎は自分の赤いネクタイを締め直し、接客の体勢へと早変わりした。それから目の前を飛翔する勝美のあとを追い、いっしょに部屋から出ようとした。その際孝治と友美と徹哉に、ひと言言い残した。

 

「三人とも、少し待っていてほしいがや。すぐに戻るから」

 

「そ、そうですかぁ……☁」

 

「早よしてくださいね☹」

 

 友美も孝治も徹哉を横目でチラリと見て、ふうっとしたため息を、同時に吐いた。なんと言っても間を仕切ってくれる者(今の場合、黒崎)がいないと、残された初対面同士では、なにを話したらよいのかわからないものであるから。


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