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『剣遊記Z』

第二章 冒険にはおまけがいっぱい。

     (1)

「冒険のお伴ばしたい……ってことは、徹哉くんは戦士志望なんですか?」

 

 自己紹介を終えた徹哉の顔をまじまじと眺めながら、孝治は怪しいモノを感じる心境丸出しで、黒崎に訊いてみた。これに黒崎は、いつもの明朗快活なスタイルには似合わない、奥歯にモノが挟まったような返答を戻してくれた。

 

「いや……特に戦士になりたい……と言うわけでもないんだがや。とりあえず、孝治たちの活躍を見学したいそうなんだがね……」

 

 このような返答のされ方だと、孝治は眉間に、ますますシワの寄る気分となってしまう。そんな孝治を前にして、黒崎が言葉を続けた。

 

「まあ、他にも魔術師や盗賊たちの仕事も見学したいそうなんだが……秀正や正男は今、どうしとるがや?」

 

 和布刈秀正{めかり ひでまさ}と枝光正男{えだみつ まさお}はふたりそろって盗賊と、職業こそ違うが孝治の同期である。孝治はすぐに、ふたりの近況を答えた。

 

「正男は清美{きよみ}といっしょに、大分県まで宝探しに行っちょりますよ✈ それから秀正は、律子ちゃんと赤ちゃんを迎えに、実家に帰ってますっちゃけ✈ 来週にも祭子ちゃんがおれたちん前にお目見えしますけ、どうぞお楽しみにしちょってくださいやて☺」

 

「そうか。孝治の言うとおり、楽しみにしとくがや」

 

 黒崎が笑みを浮かべて頷いた。

 

 秀正は愛妻穴生律子{あのう りつこ}(夫婦別姓)を出産のため、郷里の実家(博多市)に預けていた。それが初めて産まれた愛娘の祭子{さいこ}も、そろそろ大きくなっていたので、再度迎えに行っている最中であった。

 

「とにかく、ふたりともそろって不在なら仕方にゃーがや。宝探しに連れていくのはまたの機会にして、先に孝治が戦士の仕事を見せてやってほしいがね」

 

「はい、よかっちゃですよ♥」

 

 本当のところは、なにがなんだか、よくわからなかった。だがいつもの定番で、やはり黒崎からの頼まれ事は断れない。なんと言っても、孝治の生活の源であるのだから。

 

 それから黒崎との会話中、ずっと立ちどおしでいた徹哉の右肩を、孝治は先輩気取りで気安く右手で叩いてやった。

 

「まっ、よろしく頼むっちゃね♪ 徹哉くんとやら♥」

 

 するとカァーンと、なんと表現をすれば適切なものやら。およそ人間離れをした、違和感のある音が鳴り響いた。

 

「うわっち?」


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