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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (9)

「ぶぁっっくしょおおーーいっ!」

 

 荒生田の超ド派手な大クシャミが、山間を貫く街道に木霊した。

 

 ぶぁっっくしょおおーーいっ ぶぁっっくしょおおーーいっ ぶぁっっくしょおおーーいっ

 

 ちなみにふたり(荒生田と裕志)はすでに、博多県内へと入っていた。

 

「先輩、風邪っすか?」

 

 後輩の裕志が心配の顔で尋ねるが、サングラスの先輩は、シレッとしたものだった。

 

「ふふん♥ 大方どっかで、オレんこつ噂しよう連中がおるらしいっちゃね✌ 今のクシャミの加減から言うたら、たぶん街のネーチャンたちみたいばい✌」

 

(そげなこつありましぇん☠ きっとただの花粉症ですっちゃ♐)

 

 などとは決して、裕志は口から出さなかった。

 

「ま、まあ、そげなとこでしょうねぇ☻ そろそろ北九州に先輩が戻るとば、きっと待っちょる女ん子たちがおるんとちゃいますか?」

 

 ここでヘタな苦言を言って、またしばき倒されたら損。なので裕志は一応、ご機嫌取りのお世辞を並べておいた。

 

 この後輩魔術師も付き合いが長いだけあって、先輩の操縦法をだいたい心得ている――つもり。

 

「ゆおーーっし! オレば待っちょうネーチャンたちんためにも、早よ北九州に帰らにゃいけんばいねぇ……おっと、ちょい待ちや☛」

 

 見事に自意識過剰な荒生田の嗅覚が、このとき街道の途中で、なにやら見えないなにかを捕えたようだ。

 

「こっちんほうけ……ちょびっとばかし気になる匂いがするっちゃね……ちょっと道ば変えるけね☜☞」

 

 いつもの荒生田の気まぐれである。裕志はこれにも、一応慣れていた。

 

「先輩……ぼくにはなんも匂わんとですけど? まあ、戦士の勘っちゅうやつですけ?」

 

 もちろん荒生田は、裕志の言葉に飛び上がるほどの過剰反応。

 

「ゆおーーっし! そんとおり! これぞまさしく戦士の勘っちゅうやつやけねぇ☀ それよか四の五の言うちょらんで、早よオレについてこんね♐」

 

「はいはい☻」

 

 自分から言い出したものの、荒生田のほざくところの勘がなんなのやら。裕志本人には今のところ、皆目不明。しかしここは逆らわず、従順な姿勢で先輩のあとを追っていくのみだった。

 

「まあどうせ、大したこつなかっち思うっちゃけどね✄」

 

 無論このセリフも聞かれたらまずいので(またしばかれる)、裕志は小声でボソボソとつぶやくだけにしていた。


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