『剣遊記12』 第一章 戦士はつらいよ、望郷篇。 (8) 『まあ、あたしん話はもうよかっちゃけ、早よ店長んとこ行ったほうがええんとちゃう? あんまし待たせちゃ悪いっち、あたしでも思うっちゃよ✈』
「そ、それも、そうっちゃけどぉ……☁」
なんだか急にまともなセリフを言い出した涼子に、友美は話をはぐらかされたような顔になっていた。それから改めて、友美は孝治に振り向いた。
「確かに涼子ん言うとおりっちゃね☞」
なお、ここでまた余談。友美と涼子はまったく血の繋がりの無い赤の他人同士のはずなのに、ふたりの容姿はまるで、双子のようにウリふたつでいた。
一方は生きている人間で、もう一方はとっくに死亡済み(?)の幽霊であるのに。
しかしこの設定は、今回もストーリーには関係しないので、これ以上の追及は無いものとする。いつになったら、この設定を活かせる日がくるのだろうか。実に安易な物語である☠
「大したことがなさそうっち考えるんは孝治の勝手なんやけど、やっぱり店長からの話って重要っちゃよ☀ あんまし待たせちょらんで、早よ行ったほうがええっちゃけ✈」
「それもそうっちゃね♠♐」
こうなると孝治も渋々だが、友美と涼子の言葉にすなおに従うしかなかった。ただこのとき、涼子が言った、何気ないセリフ。
『そうっちゃ☆ 今思い出したっちゃけど、あたしが友美ちゃんと店長の話ばこっそり聞いたときなんやけど、もうすぐ荒生田先輩と裕志くんも帰ってくるそうやけ、孝治といっしょに仕事に行ってもらうがやって、店長が言いよったっちゃね☀』
「うわっちぃーーっ! 裕志と先輩が帰ってくるのは知っちょったけど、店長がそげなこつ言いよっとねぇーーっ!」
これにて大袈裟ではなく本当に、孝治は床から天井まで、一気に飛び上がった。頭がブツかるまで、あとわずか二センチのところであった。
「もう、涼子ったらぁ〜〜☂ こんこつギリギリまで、孝治には言わんどこっち言いよったとにぃ〜〜☃」
荒生田先輩の名前を出せば、当然の成り行き。孝治は過剰な反応を起こすはず。どうやらこの事態を予測していたらしい友美が困りきった顔になって、涼子に文句の矛先を向けていた。それでも当の幽霊に、悪びれた感じはなしだった。
『そげん言うたかて、どうせすぐにわかっちゃうことやない☠ あたしって、あんまし内緒ごとができん性格なんよねぇ〜〜♣♠』
むしろ状況をおもしろがっている感じで、またもやペロリと舌👅を出した。このようなふたり(友美と涼子)を前にして、当初は仰天したものの、孝治はなんとか平常心を取り戻した。
「い、いや……涼子、教えてくれて感謝するっちゃ♋」
それでも孝治は、ドキドキしている心臓を、右手で隠すようにして抑えたまま。なんとかして、自分の口から言葉を紡ぎ出す努力を重ねていた。
「お、おれかて……いつまでも先輩の脅威に怯えちょうわけにはいかんちゃよ♋ いい加減慣れっちゅうもんかてあるとやし、こげんなったら来るモンば来いって……もはやそげな心境っちゃね♋ そんじゃ……おれ……店長んとこ行くっちゃけね☻」
「孝治ぃ……顔色悪かっちゃよ☁」
友美が一応心配してくれるものの、すでに孝治の覚悟はできあがっていた(なんの?)。それはとにかく、孝治はふたり(友美と涼子)よりも先に、階段をダダダッと駆け上がった。
『孝治ぃーーっ! 足も震えようばぁーーい!』
涼子の声も、やはり耳には入らず(もっとも入る者は、やはり孝治と友美だけ)。そのためかいつもより調子がおかしくなっているようで、孝治は見事に階段の真ん中で足を踏み外す大失敗。そのまま階段を下まで転がり落ちる結果となった。
ただし、ケガはいっちょもありませんでしたとさ。めでたし、めでたし(?)。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |