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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (7)

 ちなみに飛んできたと言う文章表現は、本当の話。友美は魔術師なので、『浮遊』の術を使っての空中飛行が得意技なのだ。

 

 その友美が、孝治のいるテーブルの真横に、ちょこんと舞い降りた。孝治はすぐ、友美に顔を向けて言った。

 

「店長からの呼び出しけぇ……どうせ大した仕事やなかけんねぇ……☠」

 

「わたし、まだなんも言うとらんとやけど☹」

 

 孝治のつれない反応ぶりで、友美がプックリとほっぺたをふくらませた。実際に友美は、本当にまだなにもしゃべってはいなかった。それでも孝治はなんとなくだけど、直感でわかっていた。このような場合での緊急召集は、大抵平凡な仕事ばかりが多いものだから。

 

『まあ、そげんすねんでもよかやない♥ 孝治かてまだまだ半人前の戦士なんやけ、これも修行の一環ってもんちゃよ☀』

 

「なん言いよんね! おまえも友美といっしょに来たんけぇ!」

 

 このとき突然聞こえた女の子の声(友美とは別)で、孝治は瞬時にして大袈裟な反応を引き起こした。ただしその声は、現在テーブルにいる孝治と友美にしか聞こえない声だった。だからもし珠緒が退席をせずに、今も同じテーブルにいたとしたら、孝治の突飛な行動を、とても不思議に感じたことであろう。とにかくこのふたり(孝治と友美)にしか聞こえない声が、セリフを続けてくれた。

 

『でもようと考えてみたら、孝治ってほんとの意味で、半人前の戦士っちゃねぇ☹ だって、体は女ん子で頭ん中身は男ん子やけねぇ✍』

 

「涼子ぉ! おれかてわかっちょうこつ、さっきも珠緒さんから言われたばっかやのに、また言わんでよかぁ!」

 

『あら? そげんやったとね♐』

 

「孝治っ! 他のみんなに聞こえるっちゃよ☜☞☟」

 

「うわっち! まずか☠」

 

 友美から注意をされ、孝治は慌てて周囲をキョロキョロしながら、自分の口を両手でふさいだ。なぜなら『涼子』なる名前の存在は、孝治と友美――ふたりだけの秘密にしているものだから。

 

 そのためか、友美は涼子とやらにも注意を繰り返した。

 

「涼子、あなたもちょっと言い過ぎっちゃよ☛ いくら孝治んこつ、事実っち言うてもやねぇ✄」

 

『あはっ♡ ごめんなさぁ〜〜い♡』

 

 涼子が可愛い娘{こ}ぶってるつもりか、赤い舌👅をペロリと出した。だがやはり、声と同じで彼女の姿と行動は、孝治と友美以外の誰にも見えてはいないのだ。

 

 ここで説明を行なおう。実は彼女――涼子は若くして可憐な命を落としてしまい、今は幽霊となって第二の人生(厳密にはこの言い方は間違っていると思う⛔)を歩んでいる、とても非常識な少女であるのだ。

 

 おまけでさらに非常識な話。涼子は自分の幽体を孝治と友美にしか公開せず、いつも真っ裸でこの世を徘徊しているのである。

 

 これってもう、何十回も紹介した話か。

 

 そんな理由で幽霊の存在が露見したら、たぶん未来亭は大騒ぎ。孝治と友美は、そのような事態を恐れているのだ。


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