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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (4)

「先輩っ! 先輩っ! もう起きてくださいっちゃよ!」

 

「……ん? な、な、なんやぁ〜〜?」

 

 せっかくの心地良い眠りから揺り起こされ、戦士を生業とする男――サングラス😎の伊達男こと荒生田和志が目を覚ました。もっとも起きていても寝ていても、常備サングラスを装着しているままなので、本当に目を開いているのかどうかもわからないのだけれど。

 

 こんないい加減そうな目覚めをさせた者は、荒生田の後輩である牧山裕志{まきやま ひろし}。

 

「いつまでもこげなボロ家ん中で寝とったら、ほんなこつ風邪ば引きますっちゃよ♋ 早よ今晩の宿ば探しましょうよぉ☹」

 

 なんとなく情けない口振りではあるが、裕志の本職は魔術師。しかも着ている黒衣にはまったく似合わない、西洋弦楽器である『ギター』なる逸品を、いつも背中に背負っている変わり者でもあった。

 

 この荒生田と裕志。ふたりは連れ立って諸国に財宝を求めて旅をしているのだが、今回もその苦労が報われることはなし。ある森の近く、古びた木造の無人小屋を、勝手に休息の場として使っていた。

 

 荒生田はそこで、深い爆睡の世界に浸っていたようだ。

 

「……ん、裕志けぇ、今何時やぁ?」

 

 大きなアクビを連発しながら、荒生田が伊達でかけているサングラスを懐から取り出した布で拭き、後輩――裕志に現在の状況を尋ねてみた。これにすなおな姿勢で応えるところが、裕志のこれまたバカ正直な性格であった。

 

「ええっとですねぇ、きょうは昼前からこん小屋に入って、ずっと休憩ばしよったとですよ★ やけんもう、夕方近くになりますっちゃねぇ✈ まあ、先輩だけ、ええ夢ば見よったみたいでしたけどねぇ☺」

 

「……ええ夢けぇ……☻」

 

 このとき突然、荒生田が裕志の黒衣の胸倉を、右手でガシッとつかんだりする。いったん出そうになったアクビを、器用にも飲み込みながらにして。

 

 もちろん裕志はビックリ。

 

「なっ! 急になんしよんですか、先輩っ!」

 

「しゃーーしぃったい!」

 

 これから始まる、荒生田の迷言。

 

「裕志っ! てめえオレん夢ん中とはいえ、おまえくさようも勝手に、孝治の婿なんぞになってからにぃ! うらやましかぁ♨ ええっちゃね! 孝治に先に手ぇ出すんは、先輩たるこんオレやけね✌ たとえおまえがオレの後輩で孝治と同期やっちゅうたかて、これだけは断じてゆずらんけねぇ!」

 

「ちょ、ちょっとぉ! 言いよう意味がいっちょもわからんとですけどぉ!」

 

「しゃあーーしぃーーっ! これは先輩様からの愛のお仕置きやけぇーーっ!」

 

「ひ、ひえ〜〜ん☂♋」

 

 これにてまたも始まる、荒生田による裕志のポカポカタコ殴り。

 

 読んでいる読者諸君も訳がわからないであろうが、これがふたり(荒生田と裕志)の日常なのである。

 

 やがて後輩をしばき飽きたらしい。荒生田が右手の拳{こぶし}の力をゆるめ、それからポツリと語り始めた。

 

「さて、今回の旅も潮時みてえなようやけ、そろそろ未来亭に帰るとするっちゃね✈ それにしたかてこんオレが孝治のお兄ちゃんとはねぇ……夢とは言え、なんか妙な気分ちゃねぇ♡ ゆおーーっし! まっ、いっか♡ いつか孝治が望むとやったら、ほんなこつ妹やのうてオレん嫁にしても良かっちゃけどな♡☀」


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