『剣遊記12』 第一章 戦士はつらいよ、望郷篇。 (3) 「お兄さん! 今までいったいどこでなんしよったんですかぁ? なんか背中の入れモンに、日本のあちこちの観光地のペナントば持っとうみたいっちゃですけどぉ?」
ここで孝治の夫(?)である裕志が、サングラス戦士の口上をまるで聞いていないかのごとく、質問ばかりの繰り返し。それはとにかく、突然現われた黒サングラスの戦士は、困惑しているふたり(裕志と孝治)を優しく三白眼で見つめながら、その口元にはなんとも言えない、悲しげな哀愁のような雰囲気を漂わせていた。
「そう何度も言わせねえでおくんなまし☹ その質問は却下させていただきやす✄ あっしはただ、風の向くまま気の向くまま⛐ 雲の流れに身を任せながら、きょうは東にあすは西☜☝☞☟ あても無くさまよう日々の、哀しい渡世人でござんすよ☀」
「なんか言いよう意味が、いっちょもわからんとやけど☠」
困惑しているのは、大門も同じ。そんな悪徳借金取りに、サングラス😎戦士が再び振り向き直す。
「大門信太郎之助佐衛門! おまえの悪行三昧、風の噂に聞いて駆け着けてみりゃあ、思いっきり思ったとおりやなかねぇ! 貴様の命もきょうまでたい! 冥土への切符はこんオレが渡してやるけ、紫川の露と消えっしまえぇーーっ!」
ここでカッコ良く啖呵を決めたあと、腰のベルトに提げていた中型剣を抜き、河原(いつん間にやら、場面が変わっちょうばい!)にてギラリと光らせた。
「ひ、ひえーーっ!」
「こいつにゃ敵わねえ!」
「に、逃げるっちゃあーーっ!」
たちまち臆病風邪に囚われた秀正と正男。さらに砂津と井堀の面々ども。
「お、おい! わしば忘れとっぞぉーーっ!」
四人が四人とも、主人である大門を置いてけぼり。慌てふためき逃走していった。
そんな大門に、サングラス戦士が迫る。
「子分どもにも見捨てられたようっちゃねぇ☠ 往生せえやぁーーっ!」
「うぎゃあーーっ!」
袈裟がけにザシュッ! 一文字斬りにされた大門が、ザッバァーーンと紫川に身を落とす。
悪逆非道の限りを尽くした男の、まさにふさわしい最期であった。
それからサングラスの戦士がひと言。
「また……つまらぬモンば斬ってしもうたっちゃねぇ☠」
そんなサングラス戦士の後ろ姿に向かって、裕志と孝治の夫婦(?)が駆けつけた。
「お兄さん!」
「お兄ちゃん!」
しかし黒いサングラスの戦士は、ふたりに哀愁の背中を向けたまま。
「……何度も言っておりやすが、それは人違いってもんでござんす✄ あっしが知ってるその荒生田和志って男は、どこか見知らぬ土地の名も無えドブ川で、惨めな屍{しかばね}を晒してることでございやしょう♠ では、あっしはこれにて♐」
それから静かに、河原から立ち去ろうとするのみ。そこでピタッと、足を停めた。
「ただ……」
ここで再び、お終いのひと言。
「もし……その荒生田和志って男が生きてるとしたら、そいつは今でもたったひとりの妹のことを、旅の空からいつまでも見守り続けてることでございやしょう✌ あっしが知ってることは、ただそれだけでございやす♫♬」
なぜか孝治が、妹役であるらしい。なおも立ち去ろうとしているサングラスの戦士の背中に、妹である孝治が、悲しげな口調でささやきかけた。
「……お兄ちゃん、なんの事情があるかはわからんとやけど……おれ、待ってるから✈ だってここはお兄ちゃんの生まれ故郷なんやけ、いつでも帰ってきてもええっちゃよ✌」
その言葉にも、振り返る素振りすらなかった。黒いサングラスの戦士はただ、故郷である北九州村をあとにするだけ。
彼の背中に聞こえてくる、たったひとりの妹――孝治(?)の呼び声。
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