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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (2)

「誰や……いってぇ……?」

 

 大門とその手下たちが、まるで狼狽をしたかのように、周囲をキョロキョロと見回した。ところが孝治と裕志のふたりは、今の声に聞き覚えと――同時に、あるなつかしさの響きを感じたのだ。

 

「こ、この声は……☀」

 

 裕志が声を大にした。さらに孝治は、もっと確信的だった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「な、なんやとぉ!」

 

「おめえらのお兄ちゃんと言えば……✍」

 

 大門がその呼び名に驚き、ここでなぜか、秀正が解説を行なった。

 

「もう五年も前にこん村ば出てしもうて、今や音信不通で流れモンばしよう、おまえんとこの兄貴んことけぇ! それがなして、今ごろノコノコと現われやがったとやぁ!」

 

 すると秀正の解説に、まるで応じるかのごとくだった。貧乏長屋の横道から、ひとりの戦士風(全身軽装の革製鎧着用)の男が、ふらりと姿を登場させたではないか。

 

「で、出たぁーーっ! 正義の味方やぁーーっ!」

 

 井堀が悲鳴を上げた。

 

「やっぱしお兄ちゃんばぁーーい♡」

 

 孝治は満面の笑みを浮かべ、ふたつの瞳からは、涙がこぼれんばかりとなっていた。

 

 だが、現われた戦士風の男は、なぜか頭を左右に振って俯くだけだった。

 

「あいにくではござんすちゃけど、それは人違いにてござんすばい✄ あっしはただ、か弱き庶民の皆様たちをば理不尽にいじめる、無法なやつらが許せんだけでございますけんねぇ♠♐」

 

 ところがこの男。誰が見てもはっきりとわかりやすいような、大き過ぎる特徴――あるいはこの他にはなにも無いような、大いに目立つモノが顔にあった。それもふたつ。

 

 再び秀正が、キッパリと断言した。

 

「そ、その黒いサングラス😎と中途半端なリーゼント頭! 間違いなか! 伝説の流れモン、荒生田和志{あろうだ かずし}に間違いなかっちゃよぉ!」

 

「荒生田和志……やっぱしお兄ちゃんばぁい♡」

 

 孝治も黒いサングラスを、しっかりとその瞳に焼き付けた。そんな彼女――孝治(?)をひと目チラリと流し見してから、黒いサングラスの戦士がドスを効かせた張りのある声を、大門たちにぶち撒けた。

 

「やいやいやいやい! 大門信太郎之助とやらぁ! おまえは金漁りだけには飽き足りんと、このような貧しくとも美しくて清楚な女性にまで手ぇ出す悪行の数々! もはや天が許したかて、こんオレのサングラス😎が断じて許すことなんかできんとやけねぇ!」


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