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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (16)

「ゆおーーっしぃ! では出発進行ぉーーっ!」

 

 素早い勢い――かつ喜び勇んでラリーの広い背中に跨った荒生田が、早くもお客様気分でいるらしい。博美と裕志を、上から盛んに急き立てた。

 

 これに博美が、苦笑を浮かべていた。

 

「まあ、しかますほど慌てんでもええばぁよ☺☚ おれが前で指揮してやらねえと、ラリーだってどこ行っていいか、でーじなとんわけんねえからだわけさー☛」

 

 と言うような成り行きで、ラリーの背中に乗った三人組。前から博美、荒生田、裕志の順となり、ゆっくりと象の歩みで、進路を北の方角へと定めるしだいになった。

 

「……ほんなこつ大丈夫やろっかねぇ……ぼくって乗りモンに乗ったら、すぐ酔うっちゃとやけどぉ……☁」

 

 確かにそのとおり。裕志はこの世の乗り物全般に渡って、たちまちに酔う性質の虚弱体質なのである。だからきょう生まれて初めて跨る象の背中に、真に大袈裟ながら、不安満々な気持ちを増大させていた(ちゃんと薬飲めよ☚)。

 

 無論荒生田は、そんな後輩の心配事など、まったく関知するはずもなし。ときどき隙を見つけては博美の体に接触しつつ(強烈な肘鉄のお返し付き)、次のような思惑を重ねていた。

 

(ゆおーーっし! 願ってもなかったことっちゃけど、こげなでっかい象に乗って未来亭に帰ったとなりゃあ、またこんオレの人気が急上昇するってもんばい☀ これで好感度も抜群ってとこやろうねぇ♡♡♡)

 

 いついかなる場合でも、大した考えをいっちょもしない、しょーもない野郎であった。

 

 続く(当たり前やろ!)。


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