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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (15)

 裕志のオドオド的な質問が続いた。

 

「そ、そげな有名な人がなして……こげな九州の山ん奥で、象といっしょにおるとですか? そのぉ……なんて言うかぁ……いっちょも似合わんような気がするとですけどぉ……☁」

 

「ま、まあ、なんくるないさー☻」

 

 これに博美が、短髪の頭を右手でかきながらで答えてくれた。

 

「おれは……海賊やっとう馬図亀{ばずかめ}って野郎(剣遊記\登場)をいっぺー追っ駆けて、ちばって本土まで『りっかぁ!』って来たんだけどよぉ☁ そのいらぶー(沖縄弁で『うみへび』)野郎が話に聞けば、どぅまんぎるにもとっくに岡山とかの衛兵隊にとっ捕まって、今じゃ刑務所の中だわけさー☠ だから目的がひんぎちまって暇なもんだから、こうしてラリーといっしょに、てーげーにブラブラ旅して周ってばぁよ✈ まあ、いずれは西表島に帰るつもりさりんどぉ♐」

 

「はあ、海賊ば追ってですけぇ♠」

 

 馬図亀の話など、裕志はまったく知らない出来事。だけどここは一応、納得のうなずき。そこへ今まで黙って話を聞いていた荒生田が、博美の右肩を馴れ馴れしい仕草で、ポンと左手で叩いた。それからアジアゾウのラリーを見上げて言った。

 

「そげんことなら、こん先行くとこば、まだ決めてねえっちことやね♡ それやったらオレたちといっしょに来んね♡ オレたちかて見てんとおり旅の途中……それも故郷に戻るとこなんやけ、暇やったらいっしょして構わんやろ♡」

 

 これに博美も、満更でもない顔になっていた。

 

「ん〜〜、そうだある♣ おれも別にどこ行ってもいいとこだったし、やったーらのゆくるに付き合ってもええわけさー♐」

 

 恐らく元々からの、カラッとした性格なのだろう。博美がいかにもあっけらかんとした感じで、荒生田からの誘いに同意した。

 

「で、やったーらの故郷ってのはどこだばぁ? ついでだからふたりとも、ラリーのまぎー(沖縄弁で『大きい』)背中にくりん乗せてしようねぇ♡」

 

「ゆおーーっし! 象の背中に乗って帰るっちゅうんも、なかなかオツなもんちゃねぇ☆☆」

 

 今度は荒生田が、博美に軽い口笛を返した。

 

「ゆおーーっし! オレたちの故郷は、こっからそげん遠くなかけねぇ☺ こっから北に十キロぐらい行った先の、北九州ってとこやけね☝」

 

「なんだ、そんなちけーとこかよぉ☀ じゃあ遠慮しねえで、ラリーにくりん乗るっさー✈」

 

 博美が元気よく言ってラリーに顔を向けると、まるで象が人の言語を、とっくに理解しているかのようだった。水から上がったラリーが地面の上で四本の太い足を折り曲げ、そこで腹ばいの姿勢となった。

 

「頭ええっちゃねぇ、こん象はぁ♡」

 

 この動作に、裕志が感心。博美がすぐに、ふふんと鼻を鳴らした。

 

「こんなことなんくるないさー♡♡ ラリーはそんじょそこらの象とびんない違って、おれと一心同体のでーじな相棒なんだよぉ♡ これくらいのこと、お茶の子さいさいってもんだわさー☀」

 

 話がだんだんと、軽い自慢に走ってきた。

 

「……いまいちよう意味がわからんちゃけどぉ……それに日本のそんじょそこらに象はおらん……っち思うっちゃけどねぇ……☁」

 

 裕志の疑問はこのあと、完全に無視される展開だった。


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