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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (14)

「びんない(沖縄弁で『たくさん』)待たせたねぇ♐」

 

 ようやく着衣を終わらせ、象とふたり(荒生田と裕志)の前に戻ってきた短髪の女性は、実に精悍そうな戦士の身なりをまとっていた。

 

「なるほどやねぇ♐ 革製で軽めの鎧に腰の剣と、ようあるアマゾン{女性戦士}の出で立ちっちゃね☞」

 

 好色な性格とはいえ、一応荒生田は、本職の戦士である。そのサングラス戦士が彼女の頭のてっぺんから足のつま先までをジックリと眺め回し(これは失礼だよ⚠)、なんだか偉そうな評価を下したりした。

 

 それから彼女にひと言。

 

「そげなアマゾンばやっちょうのに、象まで連れての旅なんち、オレも聞いたことなかっちゃねぇ☻ これはなんか、理由でもあんのけ?」

 

「人にいっぺー質問するときは、まずはやーから名乗るのがしーじゃー(沖縄弁で『年上』)の礼儀ってもんだやっさー♨」

 

「おっと、これも失礼☻」

 

 かなりしっかりとした性格をしている女性戦士から咎められたものの、荒生田は自分の口元に、わずかなニヤリを浮かべさせただけだった。

 

「オレん名は荒生田和志✌ 知る人ぞ知る有名な戦士っちゃけ✌ そしてここで鼻血ば流しよう情けねえ魔術師がオレの後輩で、牧山裕志☻ まあ、こいつは覚えんでもよかっちゃけどね☻ オレんほうはしっかり記憶に残しちゃってや☝」

 

「ど、どうも……牧山裕志です……♋ 魔術師ばやっちょります✍」

 

 荒生田から言われたとおりの情けない仕草で、裕志がペコペコと頭を下げた。しかし短髪の女性は、意外なほどに寛容な性格でもあった。

 

「そんなに頭下げんでも、おれはなんくるないさー★ おれはこううーまくやけど、記憶力はびんない抜群なほうやっさー♡」

 

 それからふたりに、改めてのご挨拶。

 

「そんじゃあ、おれもくりん名乗らせてもらうだわけさー☆ おれの名は城野博美{じょうの ひろみ}✌ 生まれは沖縄の西表島で、やったーと同じ戦士やってるモンだわけさー☀」

 

「へぇ〜〜、ぼくの思ったとおり、やっぱり沖縄の人やったんやねぇ✍」

 

 裕志が短髪女性の出身地に関心を示すと、その博美がふふんと胸を張った。ただし荒生田も裕志も、博美が『おれ』などと自称していることに、まったく触れようとはしなかった。なぜならその理由を尋ねたところで、すぐに『うるせえ!』と返されそうな気がするので。

 

「あきさみよー、やっぱしゃべり方でわかっちまうもんやっしー✌ まあやしが、西表島って言っても、今じゃ沖縄本島の言葉がほとんどで、おれもこのとおり、本島弁にいっぺーなっとうしー♪」

 

 それから博美が、自分の背後に控えさせている、象のほうに振り返った。

 

「で、この象がおれの相棒で、名前はさっきから言ってるラリーってんさー♪ 念のためっしー、アフリカゾウじゃなくてアジアゾウだわけさー☆ 言うとくけどくにさーいなぐー……つまりはじかさーいっぺーなメスだからよぉ✌」

 

「城野博美さんですね……✍」

 

 象のほうはともかく、裕志は西表島の女性戦士――博美の名前に、聞き覚えがあるような気がしていた。

 

「……城野博美……い、いえ、博美さんって、確か南の海で海賊退治で有名な、あの城野博美さんですか?」

 

「ああ、だからよ☺」

 

「ああ、やっぱり!」

 

 驚き顔の魔術師に対して、当の博美は澄ました顔のままでいた。


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