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『剣遊記12』

第一章  戦士はつらいよ、望郷篇。

     (11)

「せ、先ぱぁ〜〜い……いつまでん覗きよったら悪かとですからぁ、早よ元ん道に戻りますっちゃよぉ……☂」

 

ここでノミの心臓である裕志が、この場からの早期退散を、荒生田にうながした。けれど、この問題児的性質であるサングラス😎の戦士は、自分勝手な屁理屈を並べるばかりでいた。

 

「まあ、よかっちゃよ♡ オレたちゃ長い旅の疲れで身も心も癒しば求めちょったんやけねぇ♡ ここで目の保養ばさせてもろうたかて、神様も天罰ば与えることはなかばい♡」

 

 無論裕志がこれで、納得するはずもなし。

 

「そげなぁ〜〜☂ 神様かてきっと、こげな悪いこつ許さんっち思いますっちゃよぉ〜〜☃」

 

「しゃーーしぃったい! よう見たらどうやら、ここには彼女ひとりしかおらんようやし、オレたちゃ彼女の護衛ば好意でやってやりよんやけ、こんくらいの役得があってもよかろうが☀ それにおまえも、ちったあ女ん裸に慣れとかんと、将来彼女がひとりもできんごつなるっちゃぞ♥」

 

 なおも罪悪感丸出しの裕志に、荒生田はこのようにのたまった。だけど本当は裕志にも一枝由香{いちえだ ゆか}という、立派な恋人がいるのだ。ところがこのような肝心な話になると、荒生田はいまだに、その事実に気づいていなかった。

 

 このサングラス野郎以外の未来亭の面々全員、知らない者がいないほどの、公然の秘密となっているのに。

 

 その件は今は棚に上げるとして、裕志の泣き言に、多少のイラつきを感じたらしい。

 

「ほんなこつ、情けねえ後輩ったいねぇ☠」

 

 荒生田が草むらから、ヒョイと立ち上がった。そのとき迂闊にも、小さな小枝をポキッと踏んだ。もちろんその音は、滝の大きな水音に隠れ、誰の耳にもまったく届かないほどであったはず。

 

 だが滝ツボにいる裸の女性は、なんとその音を聞き逃さなかったのだ。

 

「あきさびよぉ!」

 

 しかも女性の目線はしっかりと、荒生田と裕志のいる方向に向いていた。

 

「えっ?」

 

「なぬっ?」


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