前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記超現代編T』

第二章 男一名イコール美女四名?

     (6)

「男んときでも店で試着ばしたことあったっちゃけど、女ん子になって外で真っ裸やなんち……やっぱ勝手が違い過ぎるもんちゃねぇ……♋」

 

 ひとりずつ別々の試着室に入った中、ここは孝江の選んだ個室の内部。瞳の前には大きな鏡があって、そこには自分自身でいまだに慣れていない、女性であるおのれの姿が写っていた。

 

 女性化してすでに何日かが経過しているのだが、やはり自分が自分でない気持ちは、まったく隠しようがなかった。

 

「けっこう、大きかねぇ……♋」

 

 孝江は自分の胸を、両手で改めて触れてみた。自宅にしているマンションには備え付けのバスルームがあって、もう何回もの入浴を経験済みにしていた。ただし、一度に大勢入れるようなバスではないので、時間をかけてひとりずつのみの入浴としていた。しかし自宅の脱衣場にも鏡はあるにはあるが、全身上から下まで写せるほどの、大きな物ではなかった。せいぜいが、上半身のみ見られる程度の中型鏡なのだ。

 

 それがこの店の鏡の中では、まさに頭のてっぺんから足のつま先まで、見事に網羅をして写し出されていた。従って、初めて見るかもしれない自分自身の女性化した全身像――それも服を全部脱いだ全裸姿に、孝江は心臓の大きな鼓動を感じないわけにはいかなかった。

 

「やっぱ……やわらかかぁ……って、いつまでも自分ば見とうわけにはいかんちゃね✄ とにかく試着、試着っと☂」

 

 自分の胸を握っている(?)手を離し、覚悟を決め直した孝江は、まずはパンティーから履いてみた。たった今まで履いていた男物ブリーフとは、やはり勝手が違っていた。おまけにいわゆる障害物(?)がなくなっている分、思っていたよりもスムーズに履けるようだった。またブラジャーも背中のフックに少し手こずったものの、特に大きな問題もなく装着ができていた。

 

 そこへ試着室のカーテンが、いきなりガバッと開かれた。

 

「うわっち!」

 

「もう、じれったいっちゃねぇ! いったい何分かかりよっとね♨」

 

 カーテンを開いた者は、当然涼子。孝江が試着にモタモタしているので、早くも我慢ができなくなったらしい。

 

「うわっち! 急に開けんじゃなか!」

 

 孝江は慌てて、ブラジャー装着済みである胸を、両手で覆って隠した。下のほうもきちんとパンティーが履けているので(色は白)、まあ安心(?)と言えた。

 

 ところが涼子は、姉(?)の文句など無視の態度。孝江の下着姿を、マジマジと眺めていた。彼女のうしろでは友美が店員さんと、なにやら会話をしているようでもいた。

 

「ふぅ〜ん、なかなかええみたいっちゃねぇ☻ お姉ちゃんたち、まだファッションには関心なさそうやけ、こればたくさん買うのがええみたい♥♥」

 

「わかった、わかったけ☠ 早よカーテンば閉めちゃってや☢」

 

 胸を両手で隠したまま、孝江が涼子にさらなる文句を垂れた。だけど涼子はそれに構わず、次の獲物を求めるかのようにして、右隣りの試着室から、次々にカーテンを開いていった。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system