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『剣遊記超現代編T』

第二章 男一名イコール美女四名?

     (4)

 二日後である。

 

 今週号、来週号、再来週号のビクトリーに掲載する原稿が一応完成したので、きょうは一日オフの日となっていた。

 

 また和布刈が提案した親睦会――またの名をコンパは、次の原稿完成後の日に決まった。本当は今回の原稿完成後、すぐに行ないたかったらしいのだが、女性用の衣服の購入がまだなので、友美と涼子で強引に、次の次までなんとか遅らせたのだ。

 

 でもって女性化して分裂して初めての休日となった本日。元孝治たち四人は涼子と友美を伴って、街に買い物へと洒落込んでいた。

 

「なんかみんながジロジロ見ようみたいっちゃねぇ☠」

 

 孝江が居心地悪そうにつぶやくのも、これはこれで無理のない話。なんと言っても容貌が完全に同一である四人の女性が、そろって都会の街中を歩いているのだ。

 

 これがごくふつうにひとりの美女が歩いている――という程度であれば、もはや目が慣れている現代人には、まったく関心を持たれないだろう。しかし、美女でなくても同じ顔が四つも並んでいるともなれば、これまた話は別となる。

 

 世の中に本物の四つ子や五つ子も少なくはないが、今の元孝治たち四人ほど完全無欠に一致した顔となれば、これはもはや奇跡と称しても差し支えないかもしれない。

 

 しかもその同じ顔である四人が、そろいもそろって、なぜか男っぽい格好でいるのだ。これは実際に、元孝治たち四人の女性用衣服がまったく無くて、仕方なく元からある服の中で、なんとか女性が着ても違和感のないような服装にしたのだが、それでもやはり無理があった。

 

 なんと言っても、前のボタン穴の前後が違う。またTシャツの上から薄いコートなどを羽織っているけれど、やはり女の子が着るには、どこかに無理を感じさせていた。

 

「ねえ、浅生さぁ〜〜ん☃」

 

 周囲の突き刺さるような好奇の視線に耐えながら、青いコート姿の孝江がささやいた。これに前を歩く友美が振り返った。彼女は自分の休日を返上し、元孝治たち四人と涼子のためのショッピングに付き合っていた。

 

「どうしたの、孝江さん?」

 

 今も四人にはひとりずつ、右の胸に名札が付いていた。これもかなりに恥ずかしい行ないなのだが、これを継続しないと友美にも涼子にも、四人の区別がいまだにできないのである。

 

 とにかく孝江が、細々とささやいた。自分の口を、友美の右の耳に近づけて。

 

「……そのぉ、浅生さんが言うランジェリーショップって、まだですか?」

 

「もうすぐよ☞」

 

 友美はそっと、右手の人差し指で、前方を差し示した。涼子も興味丸出しで、前のほうに瞳を向けていた。

 

「うふっ♡ なんか楽しみ✌」

 

「そこに行けば当然、試着なんかもあるんやろうねぇ♋」

 

 などとつぶやく治花の顔は、ほんのりと赤く染まっていた。

 

「当たり前っちゃよ✌ お姉ちゃんたち、もう覚悟ばできとんのやろ

 

 肝っ玉であれば元兄たちを上回るであろう涼子が、意気も盛んに言ってくれた。

 

「お姉ちゃんたちのノーブラば見て、アシスタントの皆さん、仕事に手がつかん状態なんやけ、早よう見られんようにせんといけんちゃよ これも漫画のためなんやけ♐

 

「わかった、わかったけ!」

 

 なぜかまくし立てる涼子に、孝乃が周囲を見回しながら、慌てて両手を出して制止させた。

 

「あんまし人前でノーブラなんち言わんでええけ☠☢ 見てみいや☛ もう何人か、今ん声でこっちば向いたっちゃけ♋」

 

 孝乃が慌てるとおり、すでに周囲からは、ニタニタ気味のひそひそ声が広がりかかっていた。もちろんこの流れの中心は、中年のサラリーマンやオタク傾向気味の大きなお友達などであった。


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