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『剣遊記超現代編T』

第二章 男一名イコール美女四名?

     (20)

 だが、もはや遅かった。元孝治たち四人は足並みをそろえて、やばい雰囲気がある隣りの部屋に怒鳴り込んでいった。

 

 まずは襖をガラッと開いて。

 

「ほんなこつ、しゃーーしかぁーーっ! ちったあ静かにせんねえ!」

 

 先頭に立った者は孝乃。左右に治花、孝江、治代が陣取る体勢だった。

 

 でもって孝乃が、さらに叫んだ。なぜか先頭意識が、しっかりとあるようだ。

 

「さっきからほんなこつしゃーーしぃーったい! 人が楽しゅう酒ば飲んどるときに、勝手に騒いでぶち壊しにするんやなかぁーーっ!」

 

 このようにして敵地に殴り込みをかける場合、地方の訛りは、けっこうな威力を発揮するもの。元孝治たちの九州弁も、ここで大きな効果を見せつけた。

 

 実際襖を四人で開いたとき、現場は今にもヤロー同士の殴り合いが始まる寸前。男たちが互いに相手の服の胸ぐらをつかんでいた。それがそのままの体勢で、全員(六人)が見事に硬直化したのだ。

 

「これも無理なかやねぇ☻」

 

「わたしもそう思うわ♐ だっていきなり女の子が怒鳴り込んだうえに、みんなおんなじ顔してるんだもん

 

 四人のうしろでは、隣りの部屋の光景を覗いたらしい涼子と友美が、小声でささやき合っていた。

 

 しかし、しばしの沈黙も、わずかの間だけだった。なんの理由でいさかいを始めたのかはもはやわからないが、やる気満々のケンカを止められたヤローどもが、逆に突然現われた元孝治たち四人のほうに、怒りの矛先を変えていた。

 

「な、なんやぁーーっ! 急に出てきてエラそうに言うなぁーーっ!」

 

「女どもは引っ込んどれあーーっ!」

 

 『引っ込め』と言われてこれまた、かなりの泥酔状態にある元孝治たち四人が、こちらはこちらで逆ギレした。

 

「『引っ込んどれ』とはなんちゅうこと言うとやぁーーっ!」

 

「誰が『女ども』やぁーーっ!」

 

 今度の叫びは、治花と治代が担当した。別に段取りを決めているわけではないが、なぜか役割分担が、うまく機能していた。

 

 この一方で相手方の六人の中には、自分の両目を必死になってこすっている、妙に冷静な者もいた。

 

「な……な……同じ顔が四つもあるなんて……俺、少し飲み過ぎたかなぁ?」


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