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『剣遊記超現代編T』

第二章 男一名イコール美女四名?

     (18)

「で、先生たちはどうして、四人姉妹で共同して漫画家になったんですか?」

 

 ここで一番年下のアシスタントである井堀が、けっこうまともな質問をしてくれた。

 

「「「「う〜ん、そうっちゃねぇ☕☺」」」」

 

 今や恒例で、四人そろって両手を組んで考える。ポーズもピッタリ、同一である。それから一番で、理由を思いついたようだ。治花が最初に口を開いた。

 

「まあ、皆さんも共通してるとは思うんですけど、やっぱり子供んころからの憧れでしょうねぇ ほんとは初めはけっこう硬派な劇画が好きやったんですけど、デビューしたらラブコメに挑戦することになってしもうて、いやはや人生って、ほんなこつわからんもんです☻

 

 残りの三人も、そんとおりとうなずきを入れた。

 

「へぇ〜〜、女の子なのに硬派が好きとは、変わってますねぇ♋

 

 当然であろう井堀のツッコミには、四人そろっての「おほほ☻☠」でごまかしておいた。それから孝乃が、治花のセリフに付け加えた。

 

「で、四人そろってっちゅうのは、あたしたち全員、志{こころざし}がいっしょやったもんやけ、この際っち思うて、四人の共同作業で漫画ば描いたとですよ そしたらほんなこつ、息がこれ以上無いやろっちくらいピッタリやったもんで、そのまんまいっしょに作品ば描いたら、うまくいったとです✌

 

「でも、鞘ヶ谷先生……たちにラブコメを薦めたのは、実はこのわたしなんですよ☕⛾

 

 友美がだんだんと盛り上がってくる話題に、ここぞと参入した。

 

「今だから話しちゃいますけど、実は先生の新連載が決まったとき、先生は女性を優しく表現してくれるので、硬派よりもむしろ、やわらか系のラブコメ漫画のほうが向いてるんじゃないでしょうかって、わたしが編集長に相談してみたんです そしたら編集長がその線で行けって、すぐに簡単に決まっちゃいました

 

「あの……黒崎って言う名前の、ビクトリーの編集長やね☚」

 

 孝乃が友美の言葉で、まだ一回しか会ったことのない、いかにもエリート的だった少年ビクトリー編集長の顔を思い出す。

 

 実年齢は知らないが、まだ二十代後半としか思えないような若々しさ。そんな若手エリートが、現在新興中の少年誌であるビクトリーを、華々しく躍進させているのだ。

 

「でもそれでけっきょく、漫画がヒットしたんだから、その編集長も友美さんも、すっごい見る目があった、っちゅうことやね✌」

 

 酒は飲めるが、この場ではウーロン茶でセーブしている涼子が、なんだかとてもうれしそうな顔になっていた。

 

「あたしが言うのもなんやけど、おにい……お姉ちゃんたちが応募作のまんま硬派漫画ば描きよったら、実際今ごろどげんなっとったやろっか、って時々思うっちゃね もしかしたらあたしの考えが外れかもしれんけど、たぶん今ほどのヒットはむずかしかったっち思うっちゃけ

 

「まっ、何事もやってみらなわからん、っちゅうことやね

 

 治代がそんな妹の頭をよしよしと右手で撫でながら、しみじみとささやいた。

 

「ちょっとぉ! 子供扱いばやめてよぉ!」

 

 涼子が少しだけ、両方のほっぺたをふくらませたりする。

 

「じゃあ、先生の『ハプニング&パラダイス』のさらなるヒットと発展を目指して、乾ぱぁーーい🍻!」

 

 ここらで話題の区切りを感じ取ったらしい。和布刈が再び大きな声で、ビールがなみなみとそそがれている中ジョッキを、右手で高く持ち上げた。無論全員が同じ中ジョッキをそれぞれ片手で持ち、高らかな乾杯を繰り広げた。

 

「乾ぱぁーーい🍻!」

 

 涼子だけはウーロン茶だけどね。


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