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『剣遊記超現代編T』

第二章 男一名イコール美女四名?

     (17)

 日にちは進んで、早くも一週間。

 

「それでは鞘ヶ谷先生たちの漫画家デビューとスタジオ開設を祝して、乾ぱぁーーい🍻!」

 

 乾杯の音頭取りは、なぜか和布刈が務めていた。

 

 再来週号までの原稿を完了させた鞘ヶ谷孝治――元孝治である孝江、孝乃、治花、治代の四人は、アシスタントの和布刈たちがかねてから計画をしていた親睦会に誘われ、とある焼き肉チェーン店の奥座敷に集まっていた。

 

 参加メンバーは元孝治たち四人を主役に、アシスタントの和布刈、砂津、枝光、井堀の四人。さらに担当記者の友美と、孝治の妹である涼子も加わっていた。

 

 これで総勢十人。ちなみに涼子は女子大生であり、年齢も十八歳なので、法律的にアルコール類はOKである。まあ、あまり飲むほうではないけど。

 

 ついでに孝江たち――元孝治たち四人はきょうはきちんと、女性の服装で参加をしていた――とは言っても本人たちの趣向もあるので、かなりにボーイッシュな格好。男時代(?)とあまり変わらないような色違いのTシャツに、下は長めのスラックスで決めていた。これで一応女性らしく見える理由は、外出用のTPOを選択させた、友美と涼子の共同センスであろう。

 

 それはともかく、本日の親睦会幹事である和布刈のはしゃぎようは、ちょっと尋常の様子とは言えなかった。本来飲み会の幹事は一番の年長者である砂津が行なってもよいのだが、彼の性格がとても面倒臭がり屋なので、お店選びからスケジュール調整の段取りまで、すべて後輩の和布刈に任せていた。

 

 無論、和布刈自身が自分から率先をして、今回の幹事を喜んで引き受けている面もあるのだけど。

 

「み、皆さん……きょうはほんなこつ、こげな会までしてもろうて、すっごい感謝の気持ちでいっぱいです……

 

 元孝治の四人を代表して孝江が奥座敷の畳から立ち上がり、ペコリと全員に向けて頭を下げた。実は代表というより、またジャンケンで挨拶者を決めただけなのだが、本来孝治は、このような酒の席が昔から苦手であったのだ。そのため当然、その苦手意識は、四人全員に継承されていた。

 

「まあまあ、そんなに固くならないで、きょうはリラックスしてお酒とビールと焼き肉を楽しんだらいいじゃないですか☀」

 

 枝光が挨拶の言葉を終えたばかりである孝江の右肩を、軽くポンと叩いてくれた。仮にも相手は女性であるのに、けっこう遠慮を知らない男である。

 

「は、はい……☁」

 

 なお、漫画のスタジオでは全員を使う立場なので、元孝治たち四人は割り切った気持ちとなって、アシスタントたちにいろいろな指示を出していた。だけどいったん仕事場を離れれば、やはり枝光と砂津は自分(たち)よりも年上なので、そこのところはわきまえておくよう、孝江を始め四人全員、心中で密かに決めていた。


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