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『剣遊記超現代編T』

第二章 男一名イコール美女四名?

     (10)

 もちろん入る先は女湯である。それにしても、さすがに大型のスーパー銭湯は、脱衣場もとにかく広い面積が取られていた。

 

 もっとも、ひとりの男時代から、何度か利用をさせてもらっている浴場なのだ。店内のお風呂の配置などは、一応頭の中に入っている――つもり。ただ女湯のほうに入るのが、きょうが本当に初めて――と言う話である。

 

 現在の時刻が夕方なので、銭湯内は近所や遠方からの来客たちで、かなりににぎわっていた。それも家族連れが多いようで、特に女湯だと完全に女性ばかりではなく、小学校三年生以下(だろう、たぶん)の男の子たちも、けっこうな人数が見受けられた。

 

 そこで実は初めに予想をしていたのだが、元孝治たち四人の入店は、他の入浴客たちからの注目を、一斉に集める結果となった。

 

「うわあ♋ ビックリするほどよく似てるわねぇ☆」

 

「どうしておんなじ顔が四人もいるの?」

 

「スタイルまでおんなじじゃない♐」

 

 元孝治たち四人を取り囲み、入浴に来た他の女性客たちが、素直に驚きを示してくれた。

 

「「「「ははっ……☻☁」」」」

 

 元孝治たち四人、これまた表情をそろえての苦笑い。なにしろまだ完全に脱いでいないとはいえ、ブラジャーとパンティーのみの格好を披露中の身。ところがそれだけでも、四人の見事に均整の取れたプロポーションに、女性たちが皆、羨望の眼差しを向けているのだ。

 

「もしかして、あなたたちって、四つ子なの?」

 

 当然ながら訊かれると予測していた今の質問にも、苦笑いの上塗りで応じるしかなかった。そこで孝江が代表したつもりになって、質問の中年女性に答えてやった。

 

「は、はい……そうなんです♋ あたしたちぃ……その一卵性の四つ子なんです……☻☻☻☻」

 

「へえ、そうなんだ〜〜

 

 中年女性は納得をしたらしい相槌を打ってくれた。世間一般的に同じ顔がふたつ以上あった場合、大抵は双子とか三つ子と答えておけば、ほとんどの人は理解をしてくれるようである。実際、あまりにも有名な話、まったく同じ顔の六つ子の物語が存在し、今の時代になって、それが復活している世相の影響もあったりして。

 

「と、とにかく……脱ぎますね!」

 

 衆人注目の中とはいえ、一応同性がほとんどである(?)。治花が一番に意を決してブラジャーを一気に外し、それからパンティーもさっさと脱ぎ下ろした。

 

 これはある意味、見事な開き直り。しかし注目している女性たちの間からは、逆に拍手が沸き起こる。

 

「「「「?」」」」

 

 瞳が点になる四人。

 

「じゃ、じゃあ、おれ……じゃない、あたしも!」

 

 続いて孝江も、ブラジャー、パンティーともに、パッパパッパと脱ぎ捨てた。もちろん本当に捨てたわけではない。脱衣場に用意されているロッカーの中に、きちんと直し込んでいた。

 

「おれ……あたしたちもやねぇ……☁」

 

「今さらあとには引けんばい☹」

 

 残る孝乃と治代も、そろってツバをゴクリと飲みつつ、見事女湯デビューを果たしたわけ。四人とも見事なオールヌード姿となり、脱衣場内の拍手と感嘆の声が、これにてますます高まっていった。

 

「お兄……お姉ちゃんたち! 早よ入るっちゃよ!」

 

 ひとしきりのお披露目が、一応落ち着いたのを見計らったようだ。涼子が浴場の入り口前に立ち、元孝治たち四人を大きな声で呼んだ。無論涼子もすでに脱ぎ終わったあとだが(もちろんタオルで前を隠した格好)、こちらに注目する者は、ただのひとりもいなかった。

 

 口にも顔にも出さないが、涼子は少々おもしろくなかったりする。

 

 とにかくこれにて、四人は我に戻った感じ。本来の目的を思い出す。

 

「うわっち! いつまでもこげなことしちょる場合やなか!」

 

「「「へーーっくしょん!☠」」」

 

 孝江が涼子の声に気づき、残りの三人が同時にくしゃみをしながらで、慌てて浴場へとそろって駆け込んだ。


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