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『剣遊記超現代編T』

第二章 男一名イコール美女四名?

     (1)

 友美とのネーム打ち合わせは、このような異常な状態の中でも、とりあえず無事(?)に終了した。これもデビュー以来の仲なので、お互い息がピッタリ――と言っても良いのかも。

 

 それから話がとんとん拍子で進んだのち、元孝治たち四人は、早速連載作品の執筆を開始した。

 

 作品はいわゆる学園ラブコメ漫画。タイトルは『ハプニング&パラダイス』。とある高校を舞台にした、少しエッチ気味な若い男女のラブストーリーである。

 

「はい、出来上がり✌ これにベタとバックをお願いします✍」

 

 孝乃が登場人物だけを描き上げた原稿用紙を、アシスタントの砂津に手渡した。次のページはすでに、治代が執筆を行なっていた。残りの孝江と治花もそれぞれ机について、次々と新しいページを追加させていた。

 

 前述のとおり、出版社で用意をしてくれたマンションの十階の部屋が、漫画家鞘ヶ谷孝治のスタジオとなっていた。その室内は生活部分と仕事場部分に区分けをされ、漫画の執筆スタジオは部屋の中で一番広い、元の応接間だった場所が使われていた。あとの残りは生活の場であるが、原稿執筆が修羅場になれば、アシスタント全員も孝治のマンションで、一時的に寝泊まりする必要があるだろう。

 

 実はアシスタントの和布刈と井堀は、その日を密かに待ち望んでいたりもする。

 

 さらにスタジオの窓側は北向きなので、太陽光が差し込まず、やや不健康的ともいえた。しかしこれは、執筆中に暑い日差しを直接受けるよりはマシだろう――と考えた、出版社側の配慮の仕方でもあった。

 

 また、同じ苦労の繰り返しなのだが、ここでも元孝治たち四人は、右の胸に簡単な名札を付けて、アシスタントたちも区別ができるようにしていた。元孝治たち四人はそれぞれ、色も柄も違うTシャツを着ているのだが、それでも容姿も容貌もまったく違いが無さ過ぎなので、仕事場でもけっきょく、名札が必要となったわけ。

 

「先生、この建物のバックは、どんな背景にしましょうか?」

 

 描き込み中である枝光が右手を挙げて質問すると、すぐに孝江が机から離れて、彼の元へと歩いていった。

 

「う〜ん、ここは郊外の設定ですから、小さな山を描いてくれませんか✍」

 

「はい、先生✐」

 

 枝光は孝治よりひとつ年上の年齢なのだが、自分の立ち位置は心得ていた。ここでは作者の孝治――元孝治である四人姉妹(?)のほうが、一番上の立場なのである。まあ一般の会社でも年下の上司の存在は珍しくないので、砂津も枝光も、その点を気になど、まったくしていなかった。

 

「あっ、ちょっと待って

 

 ついでにあることを思いついた孝江は、そのまま枝光が描き加えをしている原稿に瞳を落とし、さらに付け加えた。

 

「山はあんまり高こうないほうがよかでしょうね✎ 郊外やから、高い電線の塔なんかも描いたほうがいいかも☛」

 

「はい、先生✍」

 

 この孝江と枝光のやり取りに、和布刈と井堀のふたりは、目がまったく離せなくなっていた。なぜならやや前かがみ気味の姿勢になって孝江が枝光に説明をしているので、彼女(?)の実はノーブラである胸が、Tシャツの首の部分から見事な垂れ下がり状態になって見えているのだ。

 

 なにしろこのふたり(和布刈と井堀)の机が砂津、枝光の年長組と向かい合わせになっているので、真正面に孝江が立って前にかがんでくれると――丸見えなのである。

 

 さらに泣きっ面に蜂ではないが、元孝治たち四人が全員、「ちょっと暑かぁ〜〜☠」とか言って、短めの半ズボンで執筆をしていたりもする。だからこの服装で立ち上がれば、当然にけっこうな美脚(?)が目に入って、ペンに集中できなくなる事態――と言うわけ。

 

「お、おい……井堀……見えとるか?」

 

「せ、先輩……見え過ぎですよ……♋」

 

 和布刈も井堀もふたりそろって、今や原稿の執筆どころではなかった。しかしこれは、声に出しての注意など、絶対にできない状況でもあるのだ。

 

 口に出せばなんだか、セクハラになりそうな問題であるからして。


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