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『剣遊記Z』

第五章 美女とヒュドラーと白鳥と。

     (6)

 廃屋敷はあっと言う間に全焼。もともと内部は廃材や瓦礫で、足の踏み場もないほどだった。これでは可燃物には、絶対事欠かなかったはずである。

 

 孝治たちの見守るその前で、石造りの古城がゴゴゴゴゴォォォォォンと轟音を響かせ、もろくも崩れ落ちていった。

 

「美奈子ちゃん、大変さんでしゅうぅぅぅ! きっとぉ美奈子ちゃんのぉお服さんもぉ、燃えてしまっちゃったさんでしゅうぅぅぅ!」

 

 千夏が泣き😭ながら言うとおり、恐らく美奈子の黒衣も、全部灰になっている有様だろう。弟子の涙声に応えてか、白鳥――美奈子が、変身してから初めての声を出した。

 

「くぁん☹」

 

 たとえ魔術であっても動物に変身中は、絶対に人語でしゃべることができない。だから白鳥語でなにかを言っているようだが、訳さなくても、だいたいわかる感じ。うちの黒衣が台無しどすえぇ😭――と言う表現方法であろう。

 

「おかしかねぇ? 中は無人なんやけ、火の気なんかいっちょも無かったはずばってんが……♋」

 

 今の中原のつぶやきが耳に入ったとたん、孝治の頭にピン☆とくるモノがあった。

 

「うわっち! ロウソクばい!」

 

 思い起こせば悪霊退治の一方法として、廊下のあちこちに火の点いたロウソクを、たくさん立てていたはずだ。しかもそれらを、一本も消した覚えはなし。だから何本かがなにかの弾みでポトンと倒れて、木材かなにかに引火をして燃え上がった可能性が、充分に考えられるかもしれなかった。

 

 孝治は憤懣気分を込めてささやいた。

 

「やけん、ちゃんと火ぃ消しとかんといけんやったちゃね☠」

 

「誰にも言うてなかろうも、そげなこと☞」

 

「そげんでした……♋」

 

 友美から軽く突っ込まれ、孝治はシュンとうな垂れた。


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