『剣遊記Z』 第五章 美女とヒュドラーと白鳥と。 (4) 友美が心配そうな顔をして、美奈子の背中を見つめていた。また千秋も気を利かせ、自分の服(くノ一風衣装)を背中にかけているが、やはり身長差があり過ぎ。ほとんど身を隠す役には立っていなかった。そんな状態の自分を自覚してか、美奈子が千秋と千夏に言った。
「千秋、千夏、お願いやさかい、館の中に置いてはると思う、うちの服を取りに行ってもらえまへんか☹」
「はいな、師匠!」
「はいさんですうぅぅぅ♡ でもぉ、千秋ちゃんと千夏ちゃんが取ってくるまでぇ、美奈子ちゃん裸のまんまさんですうぅぅぅ☁」
「それやったらわたしが……☆」
千夏の疑問に、友美は次のように答えるところだったという。
(わたしが魔術で、美奈子さんの裸ば守ってあげるけね☆)
しかし友美のセリフを途中で中断させ、美奈子は言った。
「その心配ならご無用でっせ☆ うちはこないな風にしときますさかい✌」
おかげで友美がどのような魔術を使うつもりだったかは、永遠の謎となってしまったけど。さらに愛弟子たちを安心させるつもりなのだろうか。美奈子が小声で、なにやら呪文を唱え始めた。
「あっ! これ知っちょう!」
友美は美奈子が唱えている呪文に、聞き覚えがあるような閃き💡顔となった。
「ほんなこつっちゃねぇ✍」
孝治も呪文を覚えていた。これは例の、変身魔術の呪文なのだ――ということを。
「美奈子さん、服が戻るまで変身しちょるつもりっちゃね✈」
「うわっち!」
さらに続く友美の言葉で、孝治は大袈裟な驚愕の声を上げた。それというのも、美奈子が変身する場合、いつも孝治の大の苦手――白いコブラになるものであったから。
「そ、そ、それっち、ひさしぶりばいねぇ〜〜☠」
孝治はすでにビビり丸出しで、両足もガタガタと震えていた。理由を申せば孝治はなぜか、コブラなどの毒蛇の類が、この世で一番大嫌いであるからだ。
ただしその理由の根源は、いまだに誰にも話していなかった(友美と涼子にも)。それなのに美奈子は変身魔術で、好んでコブラ(それも白色――アルピノ型)に身を変える場合が多かった。
美奈子も孝治の毒蛇嫌いを知っているはずなのに。
なお、孝治の毒蛇に対する反応にも、時と場合によって、程度に差があった。例えば今回のように、あらかじめわかったうえで変身をしてくれれば、なんとか精神が持ち堪えられた。おまけに変身を事前に申告してもらえれば、心の準備はさらに万全のものとなる。
だけども、いきなりコブラの姿で出られたら、もう駄目。恥も外聞もなしで悲鳴を上げるか、あるいはあえなく失神の憂き目を晒す結果となってしまう。
幸いきょうの場合は、前者と言えそうだけど。
それでも孝治は、内心で怯えていた。そんな孝治の前だった。美奈子の裸体が、淡い光を放った瞬間は。それが消えたあとには、コブラ――ではないモノが、そこにいた。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |