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『剣遊記Z』

第五章 美女とヒュドラーと白鳥と。

     (19)

「さて、ヒュドラーも退治したことやし、下描きも終わったけ、君も服と鎧ば着てええばい✌」

 

 中原のセリフで、孝治もようやく自分を取り戻した。

 

「うわっち! そ、そやった……っち、あんた、あげな大騒ぎばしよっても、ちゃんと絵ば完成させたっちゃね?」

 

「当たり前ばい☆ おれを誰っち思いよっとね✌☺」

 

 孝治から驚きの瞳で見られても、中原は逆に偉そうな態度を見せつけるだけ。鼻を天狗のように高くしていた。だけどここは、一応ムカつきの気分を抑えておく。それよりもさすがは本職の画家だと、孝治はすなおに感服するのみだった。

 

 それもまあ置いといて、中原に言われて気づく自分は迂闊であった。改めて周りを見回せば孝治のみ、いまだ真っ裸のままでいるのだから。だけど、あまりにも裸でいた時間が長かったためなのだろうか。今や中原に自分の一糸もまとわない裸身を見られていても、恥ずかしさもなにも感じなかった。

 

 これも一種の『慣れ』であろうか。ついでに気がつけば、もうひとりの男性――徹哉からも、ずっと裸を見られていたはずである。

 

「おれ……なしてこげん露出しちょっても平気になったっちゃろっか?」

 

 その問題である徹哉は、一応の活躍を行なったにも関わらず、依然としてなにを考えている様子なのか、まったくわからない顔をしていた。

 

おまけにずっと、こちらを向いたまま。それでもなぜか、孝治に羞恥心は湧かなかった。


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