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『剣遊記Z』

第五章 美女とヒュドラーと白鳥と。

     (17)

 それはとにかく、思わぬ伏兵の登場で、ヒュドラーは明らかに怯み始めていた。

 

 今のところ、斬られた首は一本だけ。それも現在、再生の途上にあった――のだが、それよりもすべての頭の牙のほとんどを、中原が投げた石でへし折られ、こちらのほうがずっと、戦力の大幅なダウンとなった。

 

「よっしゃ、もうよかばい✌」

 

 これにてヒュドラーが弱ったと判断したのか、中原が石投げをひと段落させた。

 

「あと一発、なんかでビックリさせりゃあ、やつは湖ん底に逃げるやろ✄」

 

「それはうちがやりますえーーっ!」

 

「なに?」

 

 早くもふだんの平静さを取り戻している中原の真うしろから、意外にも美奈子が大声を出して、画家兼投手のセリフに応じていた。

 

 孝治と中原でいろいろやっていたうちに、美奈子は白鳥から人の姿に戻っていた――ということは、彼女も現在真っ裸の格好。だが今や、美奈子は一向に構わない感じでいるようだ。それどころか両手の手の平を前へと差し出し、水面上のヒュドラーをにらんで、大きな声を張り上げたではないか。

 

「うちと千秋たちをこないドえらい目にぎょーさん遭わせたことぉ、絶対に勘弁しまへんのやぁーーっ!」

 

 続いて早口での呪文。そのあともまた迅速だった。

 

「火炎弾っ!」

 

 今回の仕事中、もう何度もお目にした火の玉が、美奈子の手の平から発射! まっすぐヒュドラー目がけて、空中を高速で突き進む!

 

 それも特大級のスイカ大!

 

「うわっち!」

 

 孝治の見ている前でドッバアアアアアアアアアアアッッッと命中! 激しい火柱と水柱が同時に噴き上がり、爆煙と水しぶきの中に肉片らしい物体が垣間見えたかと思ったら、ヒュドラーの姿が湖上から、完全にかき消えていた。

 

 文字どおり、木端微塵となったわけ。


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