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『剣遊記]』

第二章 薔薇と愛妻の秘密。

     (9)

「と、とにかくにゃん! こんまんまじゃにゃんだから、美香さんには早よ人にもにょってもらいましょうよ! おんにゃじライカンスロープ同士にゃもん、あたしが更衣室に連れてってあげるにゃん♡」

 

 全員すっかり、可奈の話に聞き入っていたところ。ここで給仕係の夜宮朋子{よみや ともこ}が突然我に返ったようにして、みんなの前に一歩出た。

 

 確かに彼女自身の言葉どおり、朋子はワーキャット{猫人間}。種類は違えど同じライカンスロープとして、なにか美香に共感する部分があるっちゃろうねぇ――と、孝治は考えた。

 

「そ、そうっちゃね……ここで立ち話もなんやし……それにニホンカモシカんまんまじゃ、いつまで経ったって話にならんけねぇ……朋子、更衣室に案内してやって☆」

 

「はぁ〜〜い✌ はい美香さん、こちらにゃん♡」

 

 由香から改めての指示を請け、朋子がカモシカこと美香を、店の奥へ連れて行こうとした。そこへ可奈がその前に立ち、前に進み出ていたふたり(ここではカモシカも人間である)を止めた。

 

「いんや、美香はあたしの部屋に来てほしいずら☆ ひさしぶりに長野の話が聞きてえからだにぃ♡」

 

「可奈さんがそげん言いようけ、ここは好きにさせてやったらええんとちゃう?」

 

 親友がそう願うのであれば、できるだけ思いどおりにさせてやったら? 孝治もそんな思いになって、由香と朋子に言ってやった。

 

「そ、そう……じゃあ可奈さん、お願いするっちゃよ☺」

 

 由香も孝治に同意してくれた。しかし朋子は違っていた。

 

「あ、あにょぉ〜〜、あたしもいっしょしてええにゃろっか?」

 

 どこまでも同じライカンスロープとして、種類は異なるが同種族の話を聞いてみたいらしい。孝治はもしかして、朋子は断られるんやなかろっか――と思ったのだが、可奈はいまだに御機嫌良好のままでいるようだ。

 

「いいずらよ♡ そん代わりだども、美香の荷物さ持ってくんない♡ 風呂敷包みひとつなんだけどねぇ♡」

 

「はい、いいにゃんよ♡」

 

 実に簡単な感じで承諾してくれた。

 

「美香、あたしん部屋は上の階ずらぁ♡」

 

 けっきょく朋子を、荷物運びにした格好。それでも本人は満足そう。可奈がそんな朋子と美香を、自分の部屋に引き連れていった。しかもさすがに山岳性の動物なだけあって、カモシカ姿の美香は、階段を器用な足取りで登っていった。その足並みは、まさに見事な獣の動作そのものだった。


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