『剣遊記]』 第二章 薔薇と愛妻の秘密。 (10) その光景を、一同はしばし感心のような面持ちで見上げていた。
そんな中で、最初に気を取り直した者は、孝治であった。
「……ワーシーローけぇ……これで未来亭にまたひとり、新しい仲間が増えたっちことっちゃねぇ……ちょっと変わっとんのがね♥」
もちろん自分のことは、思いっきり棚に上げてのひと言。それから孝治は、自分の左横にいる彩乃にも声をかけてみた。
「しかも今度は、朋子とおんなじライカンスロープやて☆ 彼女、同種族が来てうれしいみたいなんやけど、彩乃はどげん思うね?」
「う〜ん、あるしこうれしそうに見えるばってんねぇ〜〜♥」
ライカンスロープではないが、だいたい同じ系統に属するヴァンパイアの彩乃は、やや苦笑じみた顔になって、孝治に応えてくれた。
「おんなじライカンスロープやけんでしょうけど、朋子もよう三毛猫に変身して街ば散歩しようばいねぇ♡ でも朋子ん場合は有り触れた猫やけええんやろうばってん、美香さんはニホンカモシカなんやろ☞ そこんところ節度ば必要やないんやなかろっか? わたしやったら、美香さんみたいに目立つ動物で街ん中ば歩くような、そげな真似なんてできんばい✄」
(嘘吐くんやなか☠)
孝治は彩乃に向け、内心で舌を出した。
彩乃がヴァンパイアであることを知らない者はいないが、その彼女も得意の変身技があり、孝治は彼女の密かな楽しみを知っていた。
(毎晩コウモリになって夜空ば飛び回りよんの、おれかて知っとんやけね♡ やけんコウモリの悪口は絶対のタブーなんやけ♠ そりゃ『歩く』と『飛ぶ』の違いもあるっちゃろうけどね♤) (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |