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『剣遊記]』

第二章 薔薇と愛妻の秘密。

     (3)

「まっ、おらんもんはしょーがなかっちゃね☹ じゃあ孝治がオレといっしょに来るけ?」

 

 いつもの連れ(またはカモ)がいないとなれば、次の白羽の矢は、当然孝治の展開。荒生田が食指を動かした感じで、裕志と同期の後輩(孝治のこと)に目を付けた。もちろん孝治は大慌てで、頭を横に振りまくった。あとでやっぱり、頭がフラフラとした。

 

「い、いや! おれは次ん仕事が控えとうけ駄目っちゃよ! こげん見えてもけっこう忙しい体なんやけ!」

 

『嘘ばっか☠』

 

 孝治の背後で、またもや涼子が突っ込んでくれた。

 

『ほんなこつ忙しかったら、こげなとこでのんびり昼ご飯ば食べてる場合ね?』

 

「……しゃ、しゃーーしぃーーったい……☠」

 

 荒生田にも当然涼子は見えていないので、孝治はこっそり、小声で言い返した。またこの光景を友美が眺めているのだが、なんだかすっごく情けなさそうな顔をしていた。反対に当の荒生田は、意外なほどに冷静だった。

 

「そうけ☕ 別に仕事があるんやったら、今回は駄目っちゃね……あれ?」

 

 そんな風で、割と簡単に引き下がった荒生田の三白眼は、今度は孝治の右隣りの席で牛乳を飲んでいる少女に目線を移していた。もちろん千夏であるが、孝治はここで、今まで意識もしなかった、おもしろい事実に気がついた。

 

(そげん言うたら先輩、千夏ちゃんと会うんは、きょうが初めてっちゃねぇ☀)

 

 それからある意味予測のとおり。荒生田が孝治に尋ねた。

 

「孝治、そこの幼稚園児はどこのお子さんや?」

 

「うわっち!」

 

「ぷっ!」

 

『うぷっ!』

 

 荒生田のあまりのトンチンカンぶりで、孝治、友美、涼子の三人は、そろって思わず噴き出した。これは今のところ、口の中になにも無かった状態が幸い。無論、いきなり幼稚園児呼ばわりをされた当の千夏も、彼女なりに憤慨をしていた。

 

「このオジちゃん、失礼しゃんですうぅぅぅ☀ 千夏ちゃんはぁ十四歳ですうぅぅぅ☢☄」

 

 千夏はうるうるの瞳で、サングラス戦士をにらんでいた。しかしいかんせん、元の可愛過ぎる容貌が、ここでは仇{あだ}となった感じ。にらみの迫力が、微塵も感じられなかった。

 

 それはそうとして(?)、千夏は本人申告のとおり、確かに十四歳なのだ。だが茶色い髪に結び付けている大きなヒマワリのアクセサリーが、彼女を実年齢よりも遥かに幼く見せている――のかも。

 

そんな状態なものだから、千夏から文句を言われても当の荒生田の反応は、蚊どころか小ダニが刺した程度にも感じないであろう。

 

「おいおい十四歳やてぇ? お嬢ちゃんねえ、そりゃ自分ば大きゅう見せたいんは、誰でもみんなよくあることっちゃよ そやかて、大人ばからこうたらいかんばい♥」

 

「ほんとでしゅうぅぅぅ☀ 千夏ちゃん、嘘吐かないですうぅぅぅ☀」

 

 両手をブンブンと上下左右に振り回し、一生懸命主張を繰り返す千夏の仕草が、これまたお子様そのもの。だから端で見ている孝治も困りものだった。

 

(それやけあかんちゃねぇ〜〜☠)

 

 このような千夏をもはや眼中の外にしてか。荒生田が今度は孝治のほうに振り向き直した。

 

「孝治、おまえは何歳や?」

 

「うわっち……おれ……ですか? 十八歳ですけどぉ……♠」

 

「ふむふむ⚐⚑」

 

 いきなり実年齢を訊かれて、孝治は訳もわからないまま正直に答えた。しかし荒生田は孝治の返事に、軽いうなずきで応じるだけ。それから無言で孝治の背後へと回った。

 

「そんとおりばい! お嬢ちゃん、華の十代っちゅうのはねぇ♡」

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 なんと、荒生田がいきなり孝治の軽装鎧の裾を両手でつかみ、着ている鎧と下着を一気にまくり上げたのだ。

 

 これでは当然、孝治の大きめである胸が、見事白日の下に晒されたわけ。


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