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『剣遊記]』

第二章 薔薇と愛妻の秘密。

     (18)

「今回の依頼人は秀正……いや、和布刈秀正君だがや。依頼内容は奥方である穴生律子さんにかけられた呪縛を解くことにある。以上、質問はなーきゃ?」

 

 いつもより格段に堅苦しい未来亭店長黒崎氏からの念押しに、孝治はこれまた段違いに、大きめの返事で応じてやった。

 

「もうみんなわかっちょります!」

 

 これが今朝、お互いにふざけ合った仲だとは、とても思えないほどに。

 

 それはそうとして、黒崎は続けた。

 

「さらに孝治の援護として、魔術師の友美君」

 

「はい!」

 

 孝治の右横に立つ友美も、負けてたまるかの感じで、大きな返事を戻した。友美も孝治と秀正から話を聞いて、すでにやる気満々なのだ。

 

「それと……」

 

 友美に軽いうなずきを返したあと、黒崎はさらに執務室内を見回した。

 

 現在彼の執務室には、店長自身と秘書の勝美。仕事依頼人の秀正。もちろん孝治と友美もいるとなれば、おまけで涼子も同席中。この六人(注 涼子の存在を認知している者は、言い飽きたけど孝治と友美だけです)に加えて、今回はかなり異色的なる人物も、この場に参加をしていた。

 

「椎ノ木可奈君、今回は相手が魔術師なので、それに対抗するために、ぜひ助っ人として加わってほしいがや」

 

「いいずらよ♢」

 

 元山賊首領の魔術師――可奈が、冷淡な感じの口調で返事を戻した。

 

「あたしは金さえもらえば文句はねえんだにぃ♢ さけぇ、こんな仕事にいきあうんを、あたしはずっと待ってたずらぁ♠」

 

 口振りは相変わらずの無粋であった。だが、本物のやる気はありそうだ。このような可奈の振る舞いを横から眺め、孝治はつい、つまらない考え方をしていた。

 

(こげな場合ふつう……美奈子さんに頼むもんちゃけどねぇ〜〜☂)

 

 その天才魔術師である美奈子は、現在不在中。これはとっくに留守番役の千夏から聞いている話であるが。

 

 また、可奈よりも美奈子のほうが、魔力的に上級なのも承知の話。だけども現実に居ないもんはしょんなかぁ〜〜――ってとこだろうか。

 

 とは言え、可奈だって魔術師の端くれのはず。滅多な話は、口には出さんほうがええっちゃろうねぇ――と、孝治は無意識的かつ無言的に、自分の口の前に右手人差し指を立てた。このときコンコンと、誰かが執務室のドアをノックする音がした。


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