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『剣遊記]』

第二章 薔薇と愛妻の秘密。

     (14)

「……ごめんなさい☂ 今まで嘘ば吐いとったと……わたし……☃」

 

「えっ?」

 

 とりあえず緊張と興奮が収まったところで、そろって部屋にある丸椅子に腰かける夫婦であった。ところが今の爆弾発言ともとれる律子の言葉で、秀正はまさに目が点の思いとなった。

 

 そんな亭主に構わず、律子は続けた。

 

「前に孝治くんたちに髪んことば訊かれたとき、わたしは単に染めちょうだけっち言い訳しちょったと……そんときはとっさに思いついたことしか言えんかったけ……やけんいつかこん矛盾がバレるんが、バリえずかったとばい……☂☢」

 

「おれには遺伝で孝治にはおしゃれけぇ……それやったら、ほんとの理由はいったいなんね?」

 

 話が核心へと迫ったような気になって、秀正はゴクリとツバを飲んだ。もはや妻が突然別れ話を持ち出したことなど、どこか遠くへかき消えていた。

 

「……理由はこればい☟」

 

 律子も律子で、すでに気持ちの区切りがついているようだった。夫の秀正にすべてを話しているうちに彼女の中で、あるひとつの覚悟が出来上がったのだろう。すくっと丸椅子から立ち上がり、秀正が見ている前で、なんと着ている服を脱ぎ始めた。しかし、いくら自分の愛妻だからとはいえ、女性がいきなり目の前で脱ぎ始めたら、これは誰もがビックリ仰天もの。

 

「わわあーーっ! なんおっ始める気ねぇーーっ!」

 

 驚いて慌てるあまり、丸椅子から引っくりこけて頭に巻いている白タオルまでが外れて落ちた秀正であった。だけど律子は夫の無様を前にしても上着を一気に脱ぎ捨て、上半身のみの裸を見事に曝け出してしまった。

 

「こ、こらあ! 確かにおれたちは夫婦ばってん、裸になるときは時と場合ってもんがあるっちゃろうがぁ!」

 

 床に尻餅をつけたまま、秀正は大声でわめき立てた(もしかして隣り近所に聞こえたかも)。だがそれでも律子は動じず、ゆっくりとした仕草で、秀正に自分の背中を向けるだけでいた。

 

 それから静かにささやいた。

 

「見ちゃって……☟」

 

 そんな彼女の背中一面に広がって存在する『モノ』に、秀正は物の見事で両目を奪われた。

 

「そ、そん薔薇の入れ墨はなんね? 今までそげなもん、いっちょもなかったろうも!」

 

 秀正が恐れおののくとおり、律子の背中には、赤い大きな薔薇の花が描かれていた。それこそ両肩からお尻にまでかけて。


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