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『剣遊記]』

第二章 薔薇と愛妻の秘密。

     (11)

 お昼を過ぎて、孝治の親友和布刈秀正が来店した。

 

 遠方での発掘調査仕事が終了。秀正にとっての古巣である未来亭を、きょうになってひさしぶりに訪れたというわけ。

 

 早速孝治とふたりで窓際のテーブルに着き、まだ昼間なのに、冷えたビールで乾杯。前述をしてあるが、秀正は孝治と同期で、盗賊を生業とする男。おまけにこちらも可奈と美香のようにひさかたぶりの再会であるわけだが、当の秀正は、なぜだか浮かない顔付きをしていた。

 

 頭に巻いている白いタオルは、相変わらずのトレードマークであるのだが。

 

「どげんしたっちゃね? やっと遺跡発掘の仕事ば終わって、きのうから夫婦……やなか、もう親子水入らずっちゅうて良かったんやなかっちゃね?」

 

 なんとなく元気のない親友を、孝治は本気で心配した。しかし秀正はコップに注がれているビールに、ひと口付けただけ。あとは渋い表情を、孝治に見せ続けた。

 

 それから重たそうに口を開いた。

 

「孝治……おれはきょうは、仕事ん依頼人として、未来亭に来たんばい……☹」

 

 これはまた、意外なセリフを言ってくれたものだった。

 

「依頼人? まあ、なんちゅうか☃ ずいぶん堅苦しいことば言うもんちゃねぇ〜〜⛑ で、なんかあったとや?」

 

 孝治は口振りだけは冗談っぽくしても、瞳は真剣にして、秀正の話に耳を傾けた。

 

「実はやねぇ……♠」

 

 このあとの秀正の告白は、孝治を天井どころか四階建ての屋根の上まで飛び上がらせるのに(嘘)、充分過ぎるほどの内容であった。


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