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『剣遊記]』

第二章 薔薇と愛妻の秘密。

     (1)

「へぇ〜〜、千夏ちゃんがひとりでお留守番ねぇ♤」

 

 孝治の言葉に女の子が応えてくれた。

 

「はい、そうなんですうぅぅぅ♡♡ 美奈子ちゃんとぉ千秋ちゃんがぁ、おふたりさんでぇお師匠さまのぉお師匠さまの所に行ってますんでぇ、千夏ちゃんおひとりさんでぇ、留守番してますですうぅぅぅ♡♡」

 

 場面は変わって、この日の昼食時(約束どおり、由香のおごり。メニューはカレーライスとフルーツサラダ)。孝治と友美にとっては大変珍しい話。いつもなら魔術師天籟寺美奈子{てんらいじ みなこ}と行動をともにしているはずの二番弟子――高塔千夏{たかとう ちなつ}を伴って、未来手の酒場で食事についていた(一番は双子の姉である高塔千秋{たかとう ちあき})。

 

 ちなみに酒場とはいっても、平日の昼間っから酒飲み客たちが、そうそういるわけではない。従って今の時刻なら、ごくふつうの食堂と変わりはないのだ。

 

 さらに涼子も同じテーブルにちゃっかりと同席しているのだが、例のごとく霊である彼女の姿は、千夏には見えていないだろう。だから先ほどから千夏の瞳の前で、しょーもない悪戯{いたずら}を、涼子は繰り返してばかりいた。

 

『あっかんべぇーー♡』

 

 もちろんなんの反応も無いことは、涼子も承知のうえだろう。しかしこの涼子の悪ふざけには、孝治も友美も、内心冷や汗😅たらたらの気分でいた。それをなんとか表情には出さないようにして、ふたりしてミカンジュースをストローで飲みながら、ふだんの素振りで千夏に話しかけるようにしていた。

 

 まずは友美から。

 

「そ、それにしても美奈子さんと千秋ちゃんといっしょにおらん千夏ちゃんって、わたしなんか初めて見るような気がするっちゃねぇ☀ 三人はいつもいっしょっち思いよったんやけどぉ♣」

 

 それでも千夏は、超天真爛漫。

 

「はいぃぃぃ☀ 千夏ちゃんもぉ淋しいんですけどぉ、美奈子ちゃんもぉ千秋ちゃんもぉ、大事なぁ大事なぁお師匠さまの所へ行ってますですからぁ、とってもぉとってもぉ大変さんなんだとぉ思いますですうぅぅぅ☀☀」

 

「美奈子さんの師匠ねぇ〜〜☁」

 

 千夏のセリフに、孝治は別の意味で、大きな興味を感じた。

 

 あの、ちょっと変わった天才魔術師に師匠が存在するんやったら一度でけっこうやけ、実際にお目にかかってみたいもんばいねぇ――と。

 

 さらに付け加えれば、美奈子があのような高飛車な性格になった理由も尋ねてみたかぁ〜〜――てなものである。


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