『剣遊記]』 第七章 薔薇の女神、ここに在り。 (8) 娘のそばに幽霊が現在いようなどとは、夢にも絶対に思わないであろう。律子がご機嫌絶好調な感じでひなたぼっこから立ち上がり、孝治と友美に言葉を返していた。
「実はわたしって、薔薇になれる以前に、ヒデにはまだ内緒にしちょうことがあると♡ あとで教えるつもりなんやけど、その前にふたりに教えてあげるけ♡」
「内緒んこつ? まだなんかあると?」
「なんかおもしろそう♡ 早よ教えてっ♡」
「実はやねぇ……☻」
(元男の)女戦士と女魔術師が、そろって耳を傾けた。これに律子が、最初はもったいぶるかのようにしてから、思い切っての告白をしてくれた。
「あたしのお腹に、祭子の弟か妹ができちゃった……んばい♡ あとでヒデに教えたら、ビックリしてたまげるやろっか?」
「うわっち! そりゃそーとーたまげるっちゃよ!」
かく言う孝治自身、仰天のあまり屋根の上で飛び上がり、危うく下まで落ちそうになっていた。
「あん野郎ぉ! いったいいつん間にぃ! 仕事が忙しいなんちぬかしながら、しっかりやることばやっとんやねぇ!」
遠出の遺跡発掘が多く、なかなか家に帰れないと、いつも愚痴をこぼしていた。それなのに秀正は、亭主の役目を、きちんとこなしていたわけなのだ。
「おめでとう♡ 律子ちゃん♡」
友美が喜び丸出しで、水着姿の律子にうしろから抱きついた。
「きゃん♡ くすぐったいばい♡」
ワーローズとなっても、律子の肌感覚は人間のままのよう。赤い血が流れていれば、きちんと神経も通っているのだ。
そんなお祝いムード一色の中で、これも聞こえないだろうと思ってか。涼子が再び祭子相手に話しかけていた。
『へぇ〜〜、あなたに兄弟が産まれるんやて♡ ええやなぁ〜〜い♡』
ところが――だった。
『えっ! またぁ?』
またもや赤ん坊の祭子が、ニコッと微笑んだ――ように見えたのだ。
明らかに涼子へと向けて。涼子はもはや、ただならぬなにかを感じていた。
『この子もきっと、只モンやなかっちゃやねぇ……きっと将来、大物新人類になっちゃったりして……☀』 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |