『剣遊記]』 第七章 薔薇の女神、ここに在り。 (6) 秀正が完全に森のほうへ行ってから、孝治たちは屋根に上がった。
「うわっち!」
「いらっしゃい♡」
そこでは律子がすでに、薔薇から人へと戻っていた。しかも彼女はここでも、旅先で使用した緑の水着姿――ビキニを着用中。背中を上にしてのうつ伏せ姿で屋根瓦の上にゴザを敷き、太陽光に当たっての日光浴を、現在全身にて満喫中でいた。
つまり以前、孝治たちに公開してくれたときと同じ、半裸姿でいたのだ。
ちなみに祭子は、母親の右の袂{たもと}で、心地よさそうな寝息を立てていた(孝治の声でも起きなかった)。
これはやはり、母娘ともに、太陽の光がエネルギーの源――だという証しであろうか。
屋根に上がって初めは仰天したものの、孝治たち三人(くどいけど涼子は見えない)はもう、律子が水着でいることに、異議申し立てをしなかった。その代わりでもないのだが、孝治はひと言だけ、律子に苦言を呈してやった。
「亭主に心配ばさせて、自分は屋根ん上でひなたぼっこっちゃね☠ 秀正がこれば知ったら嘆くばい、きっと☠」
ところが律子は、ケロッとしたもの。
「ひなたぼっこやのうて光合成ばい♡ こげんして太陽の光ば全身で浴びたら、なんか体中に活力とエネルギーが貯まる気分ばいねぇ♡」
つまりが開き直り。緑の髪を日光に当て、ついでにペロリと舌まで出してくれた。
友美がそんな律子の緑を感じさせる全身をくまなく見つめ、感嘆的な調子で話しかけた。
「律子ちゃん、ほんなこつ植物人間になりきっちゃったばいねぇ☀ これこそまさに、新人類の誕生……薔薇の女神、ここに在りってもんやね☀」
「この驚くべき事実……知らぬは亭主ばかりなりっちね☠」
孝治もツッコミを忘れたりはしなかった。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |