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『剣遊記]』

第七章 薔薇の女神、ここに在り。

     (4)

「……可哀想なやっちゃねぇ☂ 裕志んやつ……帰って早々、運悪う先輩とバッタリ会{お}うてくさ☠」

 

 不運な友人の末路を案じながら、孝治もテーブルから立ち上がった。

 

 一応孝治は裕志との約束を守っているので、あとは本人しだいと言ったところか。

 

「じゃあ、今から秀正ん家{ち}、行ってみよっかね♡」

 

「ええ♡」

 

『はぁーーい♡』

 

 友美と涼子もそろって、孝治に明るい返事を戻した。このあと三人(孝治、友美、涼子)は、秀正、律子の招待で、和布刈家を訪問する約束になっているのだ(涼子は内緒だけど)。

 

「千夏ちゃんもいっしょに来るけ?」

 

 孝治はテーブルにひとり残っている千夏にも声をかけてみた。すると千夏は意外にも、頭を横にプルンプルンと振ってくれた。

 

「えっ? どうして?」

 

 孝治の問いに、千夏はすぐ答えてくれた。

 

「千夏ちゃんもぉ誘ってくれてありがとさんなんですけどぉ、千夏ちゃん、美奈子ちゃんとぉ千秋ちゃんがぁ帰ってくるまでにぃ、お部屋さんのぉ大掃除しないとぉいけないんですうぅぅぅ☀」

 

 よく見ると千夏は、実際に残念そうな面持ちとなっていた。彼女の年ごろからして本当は、まだまだ遊びたい盛りであるのだろうから。

 

「大変ちゃねぇ♠ 師匠の美奈子さんっち、大の綺麗好きやけねぇ♣」

 

 友美が千夏にねぎらいの言葉を贈った。これに天才魔術師の弟子が、ニッコリの天真爛漫笑顔で応じ返した。

 

「はいですうぅぅぅ☀☀ でもぉ美奈子ちゃんもぉきれいきれい大好きさんですけどぉ、千秋ちゃんとぉ千夏ちゃんもぉ、きれいきれい大好きさんですからぁ、お掃除さんもぉ大好きさんですうぅぅぅ☀☀」

 

 まさに溌剌とした明るい声音で、孝治と友美と涼子(ほんとにしつこいけれど、千夏に涼子は見えていない――と思う)にペコリと一礼。荒生田、裕志に続いて、千夏が階段をバタバタと駆け登っていった。両手にはしっかりと、お土産である吉備団子の袋を携えて。

 

「それじゃ、秀正ん家{ち}に行こっかね☀」

 

「ええっ☀ あんまり待たせちゃ悪いけんね☀」

 

『やったぁーーっ♡ また祭子ちゃんの可愛い顔ば見られるっちゃねぇ♡』

 

 孝治、友美、涼子の三人もまた元気の良い掛け声で、そろってテーブルから立ち上がった。


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