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『剣遊記]』

第七章 薔薇の女神、ここに在り。

     (3)

「ただいまぁ☀」

 

 このとき孝治にとっては都合良く、だけど本人にとっては間の悪いタイミングで、裕志がのこのこと帰ってきた。

 

 実家での所用を、どうやら無事に終えたようだ。もちろん現在、未来亭でなにが起こっているのか。それはなにも知らない感じでいるが、ご機嫌だけは好調な様子でいた。

 

 そんな調子で店の正面入り口から入ってきた裕志を、荒生田がすぐに目を付けた。当然の成り行きで。

 

「ゆおーーっし! 裕志ぃ、帰ってきたんけぇ☀」

 

「げっ! 先輩っ☠」

 

 とたんに裕志の顔が青くなる。

 

「おまえがオレに黙ってどこ行っとったか……じっくり聞かせてもらうっちゃけね♐」

 

 こうして後輩魔術師に変態サングラス😎が迫る。この事態に裕志は、歯をガタガタと鳴らせていた。

 

「あわわ……☠」

 

 さらに裕志は孝治へ顔を向けるのだが、今さらどのような手を打つべきなのか。いやいや孝治だってしっかりと、裕志里帰りの秘密は守っていた。ただこの期に及んでは、それが今やなんの意味も成さないだけの話なのだ。

 

 そんなこんなで荒生田が、裕志の黒衣のうしろ襟元を、ガシッと右手でつかみ取った。それから強引に、階段まで引きずった。

 

「ちょっとオレん部屋まで来や☠ 聞きたいことが山ほどあるったいね☠」

 

「ま、待ってくださぁーーい☂ ぼくかて旅の疲れば取りたいし……由香にも会いたいし……おっと! なんでもありましぇ〜〜ん☃」

 

 危うく自分から恋人の名をバラしそうになるのだが、この点だけは幸いだった。荒生田は後輩が自分を置き去りにしたことだけに執着し、その他の話は関心の外にしていた。しかし、先輩からの拷問にも等しい詰問責めからは、もはや逃れられない運命であろう。


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