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『剣遊記15』

第五章 暗雲めぐる太平洋。

     (18)

 孝治は早速で尋ねてみた。

 

「もう、体の具合は良かとですか?」

 

 蟹礼座はか細い声で答えてくれた。

 

「……ああ、もう大丈夫じゃ☁ これもみんなの看病の賜物かいのぉ☠」

 

「はあ、そうですか……☃」

 

 孝治はなんとなくだが気になった。言っているセリフの内容とは反比例するみたいに、なんだか冴えない顔色(青)と声音の蟹礼座なので。

 

(やっぱまだまだ、全快しちょらんみたいやねぇ☂)

 

 孝治は声には出さずにつぶやいた。

 

「で、この船は今、どこに向かっとんかのぉ?」

 

 孝治の本心など知るはずもないだろう蟹礼座が、潮風に体を当てながらで、逆に尋ねてきた。孝治も同じ左舷の手すりに身を寄せつつ、水平線の彼方を見つめたままで返答した。

 

「まだ、別に決めてなかです もともと目的の無い航海ですけ……って、ゆうか、前にグアム行きば取り止めて、東の方向に向きば変えたばかりなんですけどぉ

 

 蟹礼座が苦笑いを浮かべた。

 

「そ、そうじゃったか、じゃあ♐」

 

 それからひと呼吸置いたあとだった。蟹礼座が改めて、自分の顔を孝治と友美に向けた。

 

「じゃ、じゃあ、そん東のほうにあるハワイに行ってくれんかのぉ☀ これはわしの希望なんじゃが

 

「きぼう?」

 

「きぼう?」

 

『きぼう?』

 

 孝治と友美だけではなく、涼子までが口をそろえる結果となった。なにしろ蟹礼座の『希望』とやらの言葉が、あまりにも唐突だったものだから。


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