前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記15』

第五章 暗雲めぐる太平洋。

     (15)

「美奈子先生、あなた!」

 

 ついにと言うべきか。とうとうヒステリック的な口調になりかけて、秋恵がそのまま、背中からフラァ〜〜とうしろに倒れかかった。

 

「危なかっ!」

 

 友美が慌てて、背中を支えたから良かったものの、秋恵は本当に意識を失ったようである。その原因は言うまでもなく、師匠――美奈子の御乱心とふしだら千万を、まともに瞳に入れてしまったからであろう。

 

「あちゃあ〜〜っ☠ とにかく美奈子さん、早よベッドから出たらどげんですか!」

 

「そうでんなぁ☻」

 

 孝治は再びがなり立てたが、当の美奈子はやはり、平気の平左。ふつうにゆっくりと、一応言われたとおりにベッドから起き上がった。蟹礼座が今起こっている事態を知らないままなのは、まさに神に感謝すべき僥倖と言えるのかも。

 

「蟹礼座はんの塩梅{あんばい}もだいぶ良うなってきはったようでおますし、これでうちの用も済んだことやし、きょうのところはここまでにしといたほうがええでっしゃろうなぁ✌」

 

 (他人の)ベッドから出て立ち上がった美奈子は、もう永久的にしつこく繰り返すけど、ほとんど全裸に近い超マイクロビキニ姿。これで男女の間で何事も起こらなかったと言われても、完全に信じられない格好である。

 

 その件はもう、棚の上に置こう。

 

「千秋、千夏、行きまっせ✈」

 

「……あ、は、はいな、師匠!」

 

「はいさんですうぅぅぅ☀」

 

 さすがに――と言うべきか。一応常識人の範疇に入りそうな千秋は、しばし唖然となっていた。ところが千夏のほうときたら、やっぱり天真爛漫アンド無邪気丸出し。ほぼ裸に近い美奈子に、チョコチョコと付き従っていた。

 

 師匠同様、浮き浮きの感じそのまま。三人そろって蟹礼座の部屋から退出していった。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system