前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記15』

第五章 暗雲めぐる太平洋。

     (14)

「うわっち! 美奈子さん、なんしよんねえ!」

 

 孝治は超驚きのあまり、入室したと同時に、この場で一メートル飛び上がった。あんまり高くジャンプをしたら天井に頭を激突させる事態となるので、さすがにその付近での自制が働いたようではあるが――とまあ、孝治自身の身の安全は脇に置いて、大問題は美奈子であった。彼女はなんと、部屋にふたりっきりとなった状態を絶好のチャンスとした模様(秋恵が孝治たちの所に駆け込んだので)。黒の超マイクロビキニ姿のまんまで今もまた、蟹礼座に究極のアタックを続けていたのだ(くわしい描写はこの下の行で)。

 

 だけど当の美奈子は冷静かつ平静だった。

 

「おやまあ皆はん、なんの御用でおますんやろ? 看病ならこのとおり、このうちが誠心誠意でもって、力の及ぶ限りのことをしておますんやけどなぁ☻」

 

「その力の及ぶ限りっちゅうのが、それけぇ!」

 

 孝治は声を大にして怒鳴った。なぜなら美奈子の申す『力の及ぶ限り』――究極のアタックとやらが要するに、病人(?)のベッドでの添い寝であったからだ。それもしっかりと毛布の中に完全に身を潜ませ、イチャイチャと体全体を使っての愛撫を決行していたわけ。恐らく毛布で隠れているその下では、今も全身の肌を、蟹礼座の体に密着させているのだろう。これはこの前の夜這い失敗の、言わばリベンジなのであろうか。

 

しかしここで幸いとも言うべきか。蟹礼座本人は、なぜだか完全に熟睡の真っ最中。船酔いがいつの間にか収まったようなのだが、とにかく自分が究極の大サービス――ヘタを承知で表現すれば、まさに泡踊り寸前の事態に遭遇しているというのに、このラッキースケベにまったく気づいていないようでもあった。

 

 それでも美奈子は現在決行中である乱行を、すぐにやめようとはしなかった。突然の闖入者兼邪魔者であるはずの孝治たちを、その瞳の前にしてもなお。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system