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『剣遊記15』

第五章 暗雲めぐる太平洋。

     (13)

「なんやなんや☠」

 

 孝治たちの蟹礼座の部屋に向かう足のスピードは、当人たちがグロッキー寸前だった理由もあるが、とにかく遅かった。呼び出しに駆けつけた秋恵を除いて。

 

 さらに理由は、もうひとつあった。秋恵はなにやらあせっているようなのだが、どのように考えたところで蟹礼座の症状は、ごくふつうに起こりうる船酔いなのだ。これではそんなに、急ぐ気にもならない――と言うもの。

 

 船の中は外の荒天から遮断されているので、この時点においても全員、水着姿のまま。今やこれを問題視する者など、ひとりもいようはずがなし。

 

 そのような内部事情をかかえつつ、一行は部屋の前に到着した。

 

「入りまぁ〜〜っす

 

 右手でノブを握って、孝治は部屋のドアを手前に開いた。

 

「お邪魔しまぁ〜〜っす☁」

 

 別に遠慮する必要性も警戒する必然性も無かった。それでも孝治はいつの間にか、なにか得体のしれない妙な緊張感に囚われるような思いとなっていた。この妙な思いはドアの前に立ってから、急に発生したものだった。

 

「なんせ蟹礼座さんの周りにゃ、ヤケに積極的っちゅうか、攻撃的なんが多いけねぇ☠☻」

 

 孝治の無意識的つぶやきであるが、今は誰も突っ込んではこなかった。もしかすると、全員が同じ思いでいるのかも。

 

 だがその思いは、部屋に入ったとたん、物の見事にぶっ飛んだ。


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