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『剣遊記15』

第五章 暗雲めぐる太平洋。

     (12)

 大型帆船であるらぶちゃんの大揺れは、まだまだ収まるには程遠かった。

 

「う〜〜、さすがにこっちまで気持ち悪うなってきたっちゃねぇ☠」

 

 初めは自分が、けっこう海に強いものと自負していた。そのため現在も吐き気までは至っていないものの、孝治の精神力自体は、そろそろ限界に近づいていた。

 

「千秋もあかんわぁ……☢」

 

「なんか、わたしもぉ……☁」

 

 見れば千秋と友美も、ブリッジ内の床にしゃがみ込んで、まさにグロッキー間近の様相と顔色になっていた。しかし、このような状況であっても、平気な者が約二名。

 

『あたし、こげなとき幽霊で良かったぁ〜〜っち思うっちゃよ☀』

 

 涼子が見事にケロッとした顔付きの理由は、もはや説明の必要もなし。だがそれ以上に不思議を感じさせる存在が、千秋の妹である千夏なのだ。

 

「うわっあーーっ♡☆ お外さん、すっごい雨と風とカミナリさんがピカピカ光ってますですうぅぅぅ☺☺☺ とってもきれいきれいさんですうぅぅぅ✌♪✌

 

 幽霊以外の者たちは、ほとんど大揺れでへたばりかかっているという中である。千夏のみがキャッキャッキャッと、ブリッジ全体に響き渡るような、甲高い声ではしゃぎまくっていた。

 

「なあ、千秋……?」

 

 この元気の謎を、孝治は双子の姉である千秋に訊いてみた。

 

「なして千夏ちゃんは、あげん風に嵐ん中でもいっちょん平気なんけ? あのちんまい体のどこに、こげな状況に対する耐性力があるとやろっかねぇ?」

 

「千秋も知らんわ

 

「そうっちゃろうねぇ☻」

 

 姉の返答は、孝治の予測の範疇だった。

 

「何べんも言うとるやろ✄ 千夏は同じ双子でありながら、姉の千秋にも正体不明なとこが仰山あるのやさかい、そないな人類史上かなわんごとむずかしい質問せんといてくれへんか

 

「……おれが悪かったっちゃよ

 

 孝治はすなおな気持ちで頭を下げた。自分ももはや、床に尻を付けた格好となって。そこへ秋恵が慌てた感じで、ブリッジにいきなりダダダッと駆け込んできた。

 

「みんなぁ! 蟹礼座さんが大変ばぁーーい!」


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