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『剣遊記15』

第五章 暗雲めぐる太平洋。

     (1)

 広い太平洋を今、夕日が遥か彼方の水平線までを照らし出していた。

 

『綺麗っちゃねぇ〜〜♡

 

 らぶちゃんの左舷手すりから身(幽体)を乗り出し、涼子が感動シーンさながらに、絶好の光景を眺めていた。

 

 もっともその思いであれば、孝治も同じ。

 

「これこそ太平洋の夕暮れっちゃねぇ✌ これば見られるだけでも、今回は美奈子さんに感謝感謝っちゅうもんばい✌

 

「その美奈子さんは、あそこで蟹礼座さんに売り込み真っ最中なんやけどね☻」

 

 孝治を真ん中にはさんで、その右側に涼子。左側には友美が並んでいた。でもって友美は、甲板のうしろのほうに顔を向けていた。

 

「なるほどっちゃねぇ〜〜☻」

 

 孝治も同じ方向に顔を向けた。そこでは相変わらず黒の超マイクロビキニ姿である美奈子が、番外の珍客である蟹礼座に、初対面から続くアプローチを繰り返していた。

 

「ほんま、真の大パノラマ言うもんでんなぁ☀ 世に言いはる百万ドルの絶景言うんは、まさにこれってもんでっせ✌」

 

「そ、そうじゃのぉ……☁」

 

 蟹礼座の声音が、心なしかうわずいて聞こえる理由も、孝治にはわかりやすいくらい。先ほどから美奈子が、ほとんど露出状態である自分の柔肌を、全身でもって蟹礼座の体にすり寄せているからだ。これでは自称とは言え、荒くれ男の代名詞である船乗りも、まったくの形無しと言ったところか。

 

 これには当然負けじと、秋恵も自己売り込みに参戦していた。この戦いはもはや、誰にも止めることができなかった。

 

「あ〜〜ん! 美奈子先生、ズルかばってぇ〜〜ん あたしかていいとこば見せたかですよぉ♐

 

 こちらも美奈子よりもマシとは言え、桃色ビキニだけでの積極的寄り寄り作戦決行中である。このようなふたり(美奈子と秋恵)から両側より攻められ、蟹礼座は端から見てもわかるほどの、思いっきり赤面困惑状態となっていた。その様子は孝治と友美と涼子の立ち位置からも、手に取るように見えていた。

 

「ったく、ふたりの水着美女から攻勢ば受けるの図っちゃねぇ☻ なんか、おれと友美もおんなじビキニ姿なんやけど、あの近くに寄るんも、こっちの気が引けるっちゃよ

 

「同感やね✋✊

 

 友美も孝治のささやきに、同意を返してくれた。

 

『なんちゅうか、せっかく海が綺麗やっちゅうとに、なんか大自然に感動する空気もぶち壊しばいねぇ〜〜☻☠』

 

 涼子も両肩をすくめて、両方の手の平を上に向けていた。しかし当然の展開ながら、ふたり(美奈子と秋恵)の紛争的アプローチ合戦は、まだまだ序曲の導入部にしか過ぎなかったのだ。

 

「あのふたり、絶対なんかたくらんじょうばいね✐✒」

 

 おれん頭はきょうに限って、妙に冴えちょうけねぇ――などと、孝治は勝手に考えてもいた。


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