『剣遊記W』 第六章 悪徳酒場の大乱闘。 (9) 酒場は大混乱の修羅場と化していた。
それも無理はなかった。
「こんの野郎ぉ! どけどけどくったぁーーいっ!」
つい先ほどまで舞台で漫才を熱演していた芸人が、いきなり剣を振り回し、店内へと暴れ込んだものだから。
「この店の悪行は、すべて明々白日! このオレが天に代わって成敗しちゃるけねぇーーっ! 全員そこになおれやぁーーっ!」
話にまったく脈絡がなし。しかし完全調子に乗り切った荒生田は、だいたいこんなモノである。
「先輩……わかっちょるんかねぇ……☂」
いっしょに殴り込むつもりでいた孝治も、荒生田の超悪乗りぶりには、正直興ざめアンド超ドン引き気味。後続をやめる気になった。
それはとにかくとして、なんの前触れもなしに、突然始まったチャンバラなのだ。
「きゃあーーっ!」
店内のバニーガールたちが、悲鳴を上げて逃げまどう。
「な、なんやわからんけど、ごっつい大変やぞ!」
酔客たちも、非常事態における合法的無銭飲食を決め込んだらしい。一斉に席を発ち、全員店から逃げ出した。
結果、店内から一般人たちが、ひとりもいなくなった状態。すぐに店のお抱え用心棒たちが、ドカドカと乱入した。
「おまん! トチ狂いやがったかぁ!」
定番の怒鳴り声を上げ、剣を抜いて荒生田に斬りかかる。
「こりゃ、まずか!」
先輩のド迫力に気遅れして、孝治は逆に、頭が少し冷めていた。そこで慌てて、この場から退散。加勢に入ろうなどとは、決して夢にも思わなかった。
それよりも、同じ境遇にあった囚われのバニーガールたちを、店外の安全な場所まで誘導するほうが、今は最優先事項なのだ。
「みんなぁーーっ! こっちに逃げるとたぁーーい!」
ついでに、どうせ店を潰す結果になるならば、彼女たちの借金も、ドサクサまぎれで棒引きになったりして。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |