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『剣遊記W』

第六章 悪徳酒場の大乱闘。

     (10)

 ところが、やはりだった。人がなにかを決行しようとすれば、必ず邪魔が入る話の流れらしい。バニーガールたちを先導して出口に通じる通路を走る孝治の前に、完全に天敵と言うべき(カマッ気)監督官が立ちふさがってくれた。

 

「うわっち!」

 

 しかも言わなくてもわかる状況を、わざわざ大声でわめいてもいた。

 

「まあっ! おまんらぁ! お店がこんなに困ってるときに逃げるおつもりなのぉ!」

 

 だけど今の孝治にとって、監督官など怖い存在でもなんでもなかった。なぜなら孝治の右手には愛用の剣があり、それになんと言っても、今は勢いからして違うモノがあるからだ。

 

「ああっ! 逃げるったい! やけん邪魔すんやなかぁ!」

 

 思いっきり威勢よく啖呵を切って、孝治は監督官の鼻先に、剣の先っぽを突きつけた。

 

 たとえハッタリにしても、この脅しは非常に効果があるはずだ。

 

「ひ、ひえ〜〜っ!」

 

 思ったとおりの情けない話。監督官が無様にも尻餅をついて、そのまま一歩も二歩もずり下がった。

 

 孝治は思った。

 

(こげなしょーもないおっさんが、ちょっと出世しただけで調子に乗りきっとったんけ☁ やっぱ高がプチ出世で馬鹿な本性現わすやつっち、どこでもおるもんやねぇ☠☠☠)

 

 そのプチ出世野郎が、声を大にして叫びまくった。

 

「せ、先生方ぁ! すっとなんとかしてちょうだぁ〜〜い!」

 

「うわっち! 先生?」

 

 監督官の悲鳴に、孝治は剣を構え直した。荒生田が大勢の用心棒たちの相手をしているというのに、まだ隠し玉がいるようなのだ。

 

「おう!」

 

 悲鳴に応じて聞こえた返事は、孝治にとっては嫌な意味で、聞き覚えのある声だった。

 

「うわっちぃ……やな予感がするっちゃねぇ……☠」

 

 胸が不安でふくれる間もなし。通路の奥から顔を出した者は、予想どおりの三人組だった。

 

「やっぱ……あんたらなんやねぇ……☠」

 

 孝治は悪い予感的中に続いて、今度はウンザリの気分となった。反対に現われた三人の戦士くずれどもは、すっかりやる気満々のご様子に見えた。

 

「おまんらが暴れてくれたきに、礼を言うぜよ♡ これで遠慮のう殺せる理由ができたけのぉ♡」

 

(こいつらよっぽど、おれたちがワイバーン狩りに成功したこと……妬{ねた}んどったんやねぇ……☠)

 

 戦士くずれ三人の、あまりのネクラぶり。孝治はなんだか、心底から情けなくなってきた。

 

 この世に生を受けて、十八年と少々。まだまだ人生経験は浅いほうだが、このような人種もまた、現実に存在するって話。

 

(こいつらもう、戦士なんて思わんけね♨ ゴロ付きの飼い犬用心棒やけぇ!)

 

 孝治の腹は、これにて決まった。そんな風で剣を構えて、三人とにらみ合う孝治の前だった。いまいち見た目にパッとしない、ごくふつうのメガネ中年親父が参上した。

 

「あんまり派手に殺{や}るんじゃなかぞ☢ 廊下が血で汚れるきに☠」


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