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『剣遊記W』

第六章 悪徳酒場の大乱闘。

     (7)

 孝治は建物の陰に隠れて、荷馬車の様子をうかがった。

 

 好都合にも、荷物の積み込みは終わっているようだった。荷車は馬といっしょに、中庭で繋留されていた。

 

「見張りはひとりけぇ……ここに涼子がおったらねぇ……☁」

 

 孝治は自分の準備不足を後悔しながらつぶやいた。あいにく涼子は、現在友美と楽屋で談笑中。(一応)女の子同士で、なにやら楽しく過ごしているようだが、今から呼んで来ようにも、あまりにも時間が惜しかった。

 

「……しょうがなかっちゃねぇ……☂」

 

 仕方なくこの場で覚悟を決め、孝治は陰から姿を現わした。

 

 この手段だけは使いたくなかった。だが、素手の孝治に残された最後の武器――色仕掛けで見張りをたぶらかすしか、他に方法はないようだ。

 

「な、なんや? おまん……☄」

 

 見張りはすぐに、静かに近づこうとする孝治に気がついた。だけど、事情を知らない赤の他人が、孝治の正体を知っているはずはなかった。たぶん、店で働いているバニーガールが、なぜか突然ここに来た――としか思わないだろう。

 

 孝治はそんな感じでとまどっている感じの見張りに、思い切って声をかけてみた。

 

「うっふぅ〜〜ん♡ お兄さぁ〜〜ん♡ ご機嫌いかがぁ〜〜♡」

 

(うわっちぃ〜〜☠ なんが悲しゅうて、こげなアホなセリフ言わないけんとや?)

 

 自分でも気色悪かぁ〜〜っと自覚した。また、類似的で独自性に乏しいセリフやねぇ〜〜も、とっくに承知済み。とにかく孝治としては、これでも精いっぱいの色気を出したつもりなのだ。

 

 あとで考えてみれば、かなりの勘違い部分もありそうだけど。

 

 だが、孝治の誘惑が、あまりにもわざとらしかったのだろうか。見張りにスケベ心は、まったく湧いていないようだった。

 

「なにぼっこうな(高知弁で『突拍子もない』)ことしちゅうんじゃ? おまん……☁」

 

 むしろ変なのが来たとでも言いたげな目で、孝治を珍種動物のように見つめるだけ。

 

(おかしかねぇ? おれって自分で思うちょうほど、色気がなかとやろっか?)

 

 孝治は自信を失った。これはこれで、プライドを大きく傷付けられた思いである。

 

 しかしこうなれば、最後の最後の、また最後の手段。孝治はバニーガールの制服を脱いで、自慢(?)の胸を披露してやろうかと考えた。

 

 そのときだった。いつものパターン。

 

 見張りが背後から、いきなり木の棒らしい物でボゴッと殴られ、呆気なく前向きに倒れてしまった。

 

 バタリンコッと。


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