『剣遊記W』 第六章 悪徳酒場の大乱闘。 (18) グガアゴオオオオオオオオオオオオオオッッ!
ワイバーンの咆哮が、建物全体を激しく大振動させた。
「うわっち! 早過ぎるちゃよぉ!」
これは孝治の計算外だった。恐らく用心棒たちが大声を上げて倉庫に乱入したため、騒音で目が覚めてしまったのだろう。孝治にとっては、まさに大変迷惑な事態である。
「や、ヤバいぜよぉ!」
「に、逃げえーーっ!」
とにかくこれにて、あっと言う間の戦意喪失。用心棒どもが剣を放り捨て、クモの子を散らすようにして、ドタバタと倉庫から逃げ出した。
『やりぃ! 作戦成功っちゃね!』
無論涼子は歓喜のしまくり。反対に孝治はあせり丸出し。ついでにわめきまくりでいた。
「なん言いよんね! おれたちも早よ逃げるとばい!」
この恐るべき事態を招いた張本人が自分自身であるなど、もはや思考の外だった。孝治はワイバーンの頭部を、右手で指差した。
「見るったい! もっとまずいことになりようけ!」
孝治はとっくに気づいていた。危険防止と脅威減少のためにワイバーンの頭にかけてあった目隠しが、半分ズレて外れかかっている状態に。
「ワイバーンがおれたちば見つけたら、それこそお終いなんやけね! 口から火ぃ吐かれてまっ黒けなんやけ!」
『口まで自由にしたの、孝治やない☞』
どのような事態になっても、自分自身の身(幽体)は安泰。涼子はどこまでも、呑気な態度を貫いていた。しかし当然ながら、孝治は危険の渦中であった。
「こげんなったら店んぶっ壊しはワイバーンに任せて、おれたちは友美の救出やけぇ!」
『はぁ〜〜い♡』
やるだけの悪あがきはしてやった☠ あとはもう知らんちゃね――とばかりだった。孝治と涼子も用心棒たちと同じようにして、大慌てで倉庫から飛び出した。
だが、時すでに遅し。目隠しを完全に外したワイバーンが、倉庫から逃げる孝治の後ろ姿(もちバニーガールの格好)を、しっかりとその凶暴な両眼に焼き付けていたのだ。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |