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『剣遊記Z』

第三章 悪霊の棲む館。

     (6)

「変どすなぁ〜〜?」

 

 館に潜入をして、すでに小一時間は経過したであろうか。一同の先頭に立つ美奈子が廊下の途中で立ち止まり、辺りを不審そうに見回した。

 

「これだけ屋敷の中を念を入れて調べてまんのに、悪霊の反応がひとつもおまへんやなんて……もしかしたら、今留守にしてはるんかいな?」

 

「うわっち! 冗談やなかばい!」

 

 美奈子のうしろに立つ孝治は、思わず文句を言い立てた。

 

「悪霊が外出中やなんち、今は真っ昼間っちゃろ! やけん悪霊やったら、なんもできん時間やなかっちゃね♐」

 

 これに美奈子が、周りをキョロキョロ。警戒しながらで応じてくれた。

 

「昼間と言いはりましても、どこぞに隠れはってじんわり夜を待ってはることも考えられますさかい、まだ断言はできまへんのやけどね✍」

 

 このふたり(孝治と美奈子)のさらにうしろでは、涼子が友美に、こっそりと話しかけていた。その声で、孝治もうしろに振り返った。

 

『友美ちゃんはなんか感じんね?』

 

「わたしが? なんをね?」

 

 友美はポカンと、口を開けていた。そんな顔付きの友美に対し、珍しくも涼子のほうは真剣そうだった。

 

『わからんとねぇ☞ 前にレイス{死霊}ば出てきたとき、真っ先に感づいたの、友美ちゃんやったやない♋ やきー、きょうはどげんね?』

 

「前って……あんときのことけ?」

 

 孝治も話に加わった。涼子の言葉で、孝治も思い出したのだ。涼子が友美に話しかけている内容は、以前に島根県の古城で、レイスと遭遇したときの事件である記憶を。確かあのときはレイスの霊力があまりにも強靭だったので、実はそれほどでもないのだが一応霊感を持っていた友美が一番最初に気がついて、孝治たちに警告することができたのだ。

 

 しかし今回は、友美のほうがむしろとまどっている様子でいた。

 

「でもぉ……あんときのレイスと違ごうて今度の悪霊って、少し種類が違うようやけ、わたしかて自信が持てんちゃねぇ☁」

 

「なるほどやねぇ☹」

 

 友美の言葉に、孝治も納得してうなずいた。その理由を続けて、友美が解説してくれた。

 

「それはやねぇ、霊の性格が異なるっちゅうだけで、出現の予兆の仕方が変わってくるからっちゃよ☛ レイスの場合やったら強いオーラば勝手に放出してくれるけ、わたしも直感の発動だけで良かったわけっちゃね✌ やけど今回の悪霊が、前とおんなじ出現の仕方ばしてくれるのかどうか、わたしもいまいち確信が持てんわけなんよねぇ✋」

 

 涼子も孝治と同じ顔になってうなずいた。

 

『ふぅ〜ん、なんでもむずかしいもんなんやねぇ⛐』

 

 そんなこんなを話しているうちだった。なんだか話の流れが変わってきた感じ。

 

「師匠、ロウソクがのうなってもうたで☁」

 

 千夏といっしょに火を灯す役割を請け負っていた千秋が、最後の一本であるロウソクに火を点けながら、こちらに向いて報告してくれた。館内の探索を続けているうちに、たくさん用意していたはずのロウソクを、とうとう使い切ったようなのだ。これに美奈子が、『しょうがおまへんなぁ☹』と言いたげに、深いため息を吐いた。

 

「こないなったら、最後の手段でおまんなぁ✍ うちの攻撃魔術でこの館ごと吹っ飛ばしてしもうて、悪霊の拠り所がのうなるようにいたしまひょうか✌」

 

「うわっち♡ 出たばい、いつもの過激節っちゃね♡」

 

 策が行き詰まれば、原因の元を根底からすべて破壊してしまう。時々垣間見せる美奈子のタカ派的強行路線に、孝治は思わず賛辞の拍手👏を送ってやった。

 

「もし悪霊がほんなこつ留守中やったとしてもばい、帰って自分の家がのうなっとったら、絶対ビックリするっちゃろうねぇ☻ そこで動揺しちょうとこば、一気に片付けてしもうたほうがええかもやね♪」

 

 などと孝治は、すっかり息巻いていた。そこへ突然、聞き慣れない男の声がした。

 

『そいはぶち困るけんのー☠』

 

 それもくぐもった感じのする、中年男のしわがれ声が。


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