前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記Z』

第三章 悪霊の棲む館。

     (3)

「ハイ、ソレハ心得テイマスンダナ」

 

「そんでよか☺」

 

 徹哉からのやはり堅苦しい返事を得たあと、孝治もすぐに玄関へと足を向けた。

 

「あん! 待ってよぉ!」

 

『孝治ぃーー!』

 

 友美と涼子も、あとを追ってきた。そのまたあとから、美奈子も館の中へと足を踏み入れた。ただし美奈子にはなにか心配事があるようで、そのつぶやきが孝治たちにも聞こえていた。

 

「中原はん……例の件……まさかや思うんやけど……よもやお忘れではおまへんやろうなぁ……☁」

 

 美奈子のつぶやく『例の件』とは、中原が譲ると約束している、金のブレスレットに違いないだろう。たぶん美奈子は、中原が簡単に心変わりをした姿を見て、かなりの不安を感じ始めているのではなかろうか。

 

「ま、美奈子さんの心配も、もっともやね☠」

 

 孝治は美奈子に共感した。恐らく、もともとから信用していたわけではなかろうけど、あれでは土壇場で再び心変わりしそうな予感がして、仕方がないに決まっている。なにしろブレスレットの譲渡はあくまでも、単なる口約束でしかないのだから。

 

 そんなところへ弟子の千秋が、なにやら師匠の不安に気づいたらしかった。

 

「大丈夫やで☀ いざとなったら魔術でかっぱらってもええんやからなぁ☆」

 

 さすがは美奈子の一番弟子。そのものズバリを言ってくれたあげく、師匠に悪の企みまでもそそのかす態度に出るとは。

 

 可愛い顔して、とんでもない十四歳の乙女である。

 

「まあ、あんな口だけのおっさんは、いざとなったら非常手段のひとつやふたつ、コテコテにかましてもええと思うで☠」

 

「そうでおまんなぁ♐」

 

 千秋の危険思想に、しっかりと師匠である美奈子が同意をしていた。

 

「おっそろしか師弟関係ばいねぇ♋」

 

 孝治はふたりにある種の戦慄を覚えながら、また別に、それを咎める気にもならなかった。

 

 なにしろターゲットである中原に、孝治もあまり良い感情を持てないものだから。

 

 それはとにかく、美奈子も不安要素を開き直りへと変換させたようだ。千秋と千夏(なぜか無発言な姿勢が気にかかるけど)のふたりを連れた格好で、館の中を進んでいった。

 

「ま、まあ、おれたちも入るっちゃね✈」

 

「うん☢」

 

『はいはぁーーい♡』

 

 簡単に美奈子たちから追い抜かれたかたちとなって、孝治と友美と涼子も続いた。

 

 先行している中原や美奈子たちの待つ、悪霊の棲む館へと。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system