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『剣遊記Z』

第三章 悪霊の棲む館。

     (2)

 ギギぃぃぃぃぃぃぃぃぃっと、錆びついている城門を無理矢理強引に押し開いてから、孝治はうしろで控えている美奈子に尋ねてみた。

 

 どうでもよいことではあるが、錆びだらけの鉄門が開く音は、どうしようもないほど本当に不気味な感じがするものだ。

 

「さてと……とりあえず……どげんする?」

 

「そうどすなぁ〜〜☜☝☞☟

 

 二階建ての建造物を下から見上げ、美奈子がしばしの思案に暮れていた。それからひとつの、なにもない空洞のようになっている小窓に瞳を向けた。

 

「あそこの窓だけ、窓枠ごと外れておまんなぁ☝ 悪霊かてたぶん、あっこから出入りしてんのとちゃいまっか♋」

 

「ほう、悪霊っち霊体やけ、窓やろうと壁やろうと、どっからでも自由に出入りするんじゃなかとか?」

 

 中原が興味を抱いた感じで、美奈子に話しかけてきた。これに美奈子は、窓枠から目線をズラさないままで、その質問に答えた。

 

「それが、そうでもおまへんのや☻ 確かに悪霊は壁抜けもできるはずなんやけど、建物の入り口なんぞに妙なこだわりを持っておりますさかい、どないな場合ではっても、綺麗な場所や人の入り口になっとうとこを使いたがる、けったいな癖がおまんのや♣ それにガラスの破片だらけの所も、なんとなく嫌がるようでおますし♐」

 

「なるほどぉ、それは初めて聞いたばい✍」

 

『へぇ〜〜、あたしも初めて知ったっちゃねぇ✎』

 

 美奈子の説明に感心してうなずく中原のうしろで、涼子までが同じセリフをつぶやいていた。

 

 悪霊と幽霊の違いがあるのだろうけれど、涼子の場合、出入り口であろうと壁であろうと、一切お構いなし。いつも自由勝手に出入りをしている。だからあまりにも気ままにやり過ぎて、孝治と友美から無節操だとお叱りをいただいているほどである。

 

「そんじゃ徹哉に中原さん、あんたらふたりはここに残って、ジッとしちょりや✄ これからが本番なんやけ、素人が立ち入れるような出番はなかっちゃけね✃」

 

「ハイ、ワカリマシタ、ナンダナ」

 

 ここで偉そうぶった孝治のセリフに、徹哉は馬鹿正直と言いたいほど、すなおに応じてくれた。しかし中原は違った。

 

「いや、おれは気が変わったばい✑ おれも行かせてもらうったい✈」

 

 なんと出発前の約束事を、突然反故{ほご}にする態度に出たのだ。

 

「うわっち! そりゃ話が違うやろうも♨」

 

 カチンときた孝治に、中原は平然と嘯{うそぶ}くようなセリフを言ってくれた。

 

「いんや、よく考えてみりゃあ、おれの目的は君が戦う場面ば見ることにあるったい✌ やけん、ここでおとなしゅう引き下がったら、おれはなんのために萩市まで来たんか、ようわからんようになってしまうんばい☛」

 

「ズルかっちゃよ! 最初っからとことんついて来る気やったんやろうが!」

 

「なんち言われようとけっこうやけ☻ ただし、おれ自身の身はおれ自身で守るけん、君たちはおれんこつ気にせんと、悪霊退治に専念してええばい☢ じゃあ、先行くけ✈」

 

 もはや孝治の文句など、右から左に聞き流すだけ。ほとんど眼中になしの態度で、中原はうしろを振り返りもせず、さっさと館の玄関のほうに歩いていった。

 

 孝治はその背中に、捨てゼリフを投げつけてやった。

 

「ああ、そげんするけね! 本当にてめーの身はてめーで守るっちゃぞ!」

 

「アノォ……ボ、ボクハドウシタライイノカナ?」

 

 中原の豹変で、連鎖的に動揺でもしたのだろうか。徹哉までが自分を自分の右手で指差し、孝治に尋ねてきた。

 

 これに孝治は一喝。

 

「おまえはここで、ジッとしてろっちゅうと!」

 

「ハイ、ナンダナ」

 

 そのままビシッと、直立不動の姿勢で硬直化。孝治はそんな徹哉に、もうひと言言ってやった。

 

「こげんなったら、おまえだけは絶対ついて来たらいかんちゃけね✄ 本当に素人は足手まといなんやけ☢」

 

 徹哉が黒崎の知人であることも、もはや忘却の彼方。孝治はジロリと、徹哉ににらみを効かせてやった。

 

 自分でも自覚はしているが、それこそ『我ながら』の、本当に偉そうな態度っぷりで。


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