『剣遊記Z』 第三章 悪霊の棲む館。 (11) 大きな胸も、その他なにもかも丸出しの姿であった。だが、この緊急事態の元では、孝治は顔を真っ赤に染める暇すらなかった。
「こーなええ話はねえ♡ この女の魔術でドラゴン{竜}に変身して、萩の町を焼き払ってくれよーでー✌」
「しもうたぁーーっ! 声が美奈子さんなもんやけ、つい自然に会話してもうたぁーーっ!」
「師匠を返さんかぁーーい!」
後悔しても、もはや遅し。美奈子の実力を知った取蜂が、慌てて飛びかかろうとする千秋をヒラリとかわし、裸のままで窓から外に飛び出した。しかし孝治も、千夏を背負っている今の体勢では、まるで身軽に動けなかった。だから再び、千夏を中原に預けるようにした。
「こん子ば頼むけね!」
「わかった✌」
さすがに大人だけあって、中原もすぐに了承してくれた。それからすぐ、孝治も窓から飛び出そうとした。
「うわっち!」
このときになって、孝治は気がついた。
「ここっち二階やったとぉーーっ!」
館の中では、階段を上がった記憶はなかった。それなのにいつの間にか、孝治たちは二階で騒ぎを起こしていたのだ。
しかしよく見れば、こちらは館の裏側。表からは見えなかったが、裏側は地面のほうが、一段下がる地形になっていた。
「うわっち! そげんことやったとねぇ!」
つまりが館は、建物の裏側が下り坂となる、傾斜地の上に建てられていたわけ。
「うわっちぃーーっ!」
だが軽装とはいえ、鎧を着ている孝治の全重量は、かなりのもの。これでは今さら、飛び込みが自力で止められるはずもなし。しかも、なんの心構えも行なわず、慌てて飛び降りて、無傷でいられるはずがない。あばら骨を含め、骨折の四、五本は覚悟の事態となってしまう。
重力の法則に従って、孝治は二階の窓から勢いのままで飛び出した――わけ。もはや自分のブレーキが利かないままに。
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